第58話 異世界での人間族の立場

「ふーん、やっぱり人間って変わってるよね」


「ん?どういう事です?」


 俺がこの世界でのんびりとしていられない理由を語ると、ユリアーナはそう感想を漏らした。


「えっと、あなたは人じゃないのですか?」


 一瞬こいつの言ってる事の意味が全くわからなかったよ。


「私は人間じゃなくてローフィルだよ~。シンちゃんもうぼけちゃった?」


 ああ!そういうことね。確かに彼女は人間ではなくローフィルだった。


「ああ、そうでした。総称そうしょうとして「人」と呼ばれているので、うっかり勘違いしていました」


 この世界に存在する「人」と呼ばれるのは3つの人種だ。


 白と見間違えるほどの美しい金の髪を持ち、その寿命は1000年から長寿の者になると10000年を超えると言われているエルフ。その魔力は他の種族を圧倒するものがあるそうだ。


 燃えるような赤い髪が特徴的で、こちらもエルフほどではないにしても、平均1000年と言う寿命を誇るローフィル。芸術肌の人が多く、魔法の扱いにも長けているし剣の扱いも得意だ。


 平均寿命は80~90歳。能力も種族でこれといったものはなく、魔法を得意とする者から、剣の道に走る者等、本当の意味で人それぞれの個性を持つ人間。


 なんかこうして見ると、バランス悪くね?


 何がどうって言うわけではないんだけど、これって人間の寿命を延ばしてしまえば、エルフとローフィルを兼ねる気がするんだよね。


 人間の中にも、物凄い魔力を持った奴もいるらしいから、余計にそう思うんだろうなあ。


「人間ってさ、今日話し合って明日か明後日には結論出したりするじゃん?」


「まあ、ケースによるとは思いますが」


「それが私達ローフィルからしたらせっかちに見えちゃうんだよね」


「そうなんですか?」


「ほら、エルフや私達って寿命が長いから、1~2年待つこととかしょっちゅうだよ?エルフなんか、もっとのんびりかもね」


 はあ、なるほどねえ。確かに寿命が1000年とかあれば、早急に何かを行わなければいけない事なんて無かったかもなあ。


「やっぱり地球人って異質だよね」


「・・・?なんで地球人が異質なんです?こちらの世界の人間だって同じなのでは?」


 こっちの人間も、寿命は俺達地球人と一緒なんだし、物事の進め方のスピードはあまり変わらんと思うんだけど。


「あれ?言ってなかったっけ?」


「何をですか?」


「この世界には、元々人間はいなかったって話」


「はあ!?・・・いえ、初耳です・・・」


 なんだよその話!あ!もしかしてあれか!?


「もしかして、地球から転生した者が、この世界で人間として初めて誕生したって事ですか?」


「正解!」


 まじかよ・・・。


 あー、それだとさっき俺が種族のバランスが悪いと感じたことも納得だわ。だってエルフとローフィルで完結してるもんな、種族としては。人間がそこにいることが不自然だったんだ。


「それにしては、人間の数多くないですか?元々いるローフィルやエルフより多い気がするんですが・・・」


 これは錯覚とかじゃないと思う。町へ行くと、出会う人の7割は人間だと思う。

で、残り3割がエルフかローフィル族って感じだ。


「そりゃ、出生率が違いすぎるもの」


「出生率?」


「赤ちゃんが生まれる確率」


「それは知ってますよ。出生率が違うって、どれくらい違うんですか?」


「そうね、ローフィル族の子供が生まれるのは200~300年に一人、エルフだと1000年に一人とかもあるかもね。あ、一組の夫婦からって意味ね」


 千年に一人・・・。


 じゃあ、エルフの夫婦に子供が生まれたら、めっちゃレアってことか・・・。それって、ローフィルと人間、又はエルフと人間の夫婦だったりした場合どうなるんだろう?


 ちょっと気になったんで、その辺を聞いてみることにした。


「ええ!シンちゃんもしかして私の事そんな風に・・・。どうしよう、私まだ、心の準備ができてないよぉ」


 ユリアーナは下を向いて内股になってもじもじし始める。


 うっぜえええええええええええええ!そういえばこいつはこういう奴だった!

エルフと人間の夫婦とだけ聞けばよかった!


「いえ、そういうのは本当にいらないんで」


「シンちゃんホントノリ悪い」


 澤田の気持ちがよくわかるぜ。会うたびにこんな調子でやられてるんだろうなあ。


「まあ、人間との夫婦だと、少しは着床率上がるみたい。だけど、人間の寿命がそもそも短いからね。へたしたら、同じ種族同士の夫婦より実質出生率は下がってしまうかも」


 ああ、そっか。子供が出来る確率は多少上がっても、人間の寿命が80年くらい。300年に一人が100年に、1000年が500年になったとしても、80そこそこで死んでしまう人間では、あまり意味はないかもしれないな。


 それにしても、元々いなかった種族をよく受け入れる気になったものだ。もしかしてこの世界の人達って、めちゃくちゃおおらかなのか?


「いやいや、最初は迫害が酷かったって聞いたよ。突然生まれてきた、エルフでもローフィルでもない種族にかなり戸惑ったみたい。酷いときは、母子共々処刑とかあったっぽいし」


 まじかよ・・・。いやでも、生まれてきた子供が自分達と違う外見をしていたら、そりゃあみんな気味悪がるだろうな。


「でも結局、繁殖力って言ったら悪いけど、人間の子供の生まれやすさは、エルフやローフィルのそれとは全然違うからね。それに転生者の子孫だから能力的にも優秀な人材が多かったのも相まって、結局は人間が種族の中心になるのにそう時間は掛からなかったみたい」


「なるほど・・・。でも今は、それぞれの種族間での問題は、目に見える範囲だとそれほど無いように見えますね」


「まあ、元々エルフはあまり他の種族と交流を持ちたがらないし、ローフィルはその辺気にしない人も多いからね」


 なるほどね。だとすると、異世界人の末裔である人間が主力となっている今のこの世界の現状は、幻想神からしたら我慢できないだろうなあ。


 しかも、極わずかだとは言え、エルフやローフィルの中にも、地球人の血が混じってる可能性もあるわけだしな。


「さてとっ」


 そういうと、ユリアーナは座ってた椅子から立ち上がった。


「すっかり遅くなっちゃったし、そろそろ部屋に戻るね」


「そうですか。今日は興味深い話を本当にありがとうございました。レモン水もとても美味しかったです」


「それならまた作ってきてあげるよ~。ごめんね遅くまでお邪魔して。ゆっくり休んでね」


「いえ、本当に助かりました。おやすみなさい」


 そしてユリアーナは自分の部屋へと戻っていった。帰り際、投げキッスとかしながらな。


 部屋に俺一人になったので、ベッドに再び横になった。まあ、色々俺の知らないことが、次から次へと出てくるもんだ。


 人間がこの世界には元々存在しない種族だってのは衝撃的だった。なんか、元々いた人種を駆逐してしまうような外来種になってしまったようで、あまり気分は良くない。まあでも、現在では問題は起こってないようでなによりだが。


 さて、そろそろ俺も寝るかな。明日も澤田と話す予定だし、その後俺がどうするのかも決めなきゃだしな。そしてアンネローゼの事もだ。


 澤田と話すと言っても、話の核心部分はほぼ聞くことが出来た。なので、後は俺が個人的に聞きたいことを聞くだけなんだけどな。


 それよりも、俺が今後どう立ち回るかの方が余程重要だ。


 正直に言うと、リバーランドの住人として、再び元の生活に戻る選択肢は、俺の中ではゼロに等しい。


 バリーやベアトリクスとあんな事があった以上、何事もなかったかのように振舞うのはちょっと俺には無理っぽい。


 たぶん一番ベターな選択は、転生者達の仲間になる事だと思う。


 けどなあ。なんかこう、気が進まないんだよ。いやもちろん、彼らが信用できないと言うわけじゃない。あーもう!なんか上手い言い回しが見つからない!


 そしてアンネローゼだ。


 リバーランドに居るときは気付かなかったが、あのハイランド兵による自宅襲撃事件以後、少しだけ気になっていた傾向が顕著に表れてきた気がする。


 彼女の事もどうにかしないといけないだろう。

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