第55話 現代神と幻想神2

「まあまあ、ちょっとひと息つこうよ」


 幻想神の「ずるい」という感覚に付いていけず、ちょっとした混乱状態に陥ってると、ユリアーナがお茶を勧めてきた。


「あ、すみません、頂きます」


 差し出された湯飲みを受け取り、ずずーっと茶をすする。やっぱお茶は玄米にかぎる・・・って、え!?


「これ緑茶ですか!?」


「おー!さすがにわかるんだねー!」


 俺の言葉にユリアーナが嬉しそうな反応を見せる。


 そりゃわかるよ!大抵の日本人なら、一生のうち一度くらいは飲む機会はあるだろう。問題はそこじゃねえ。


「えっと、なんでこの世界に緑茶があるんですか!?そもそも茶ノ木ちゃのきなんて存在するの!?」


 俺は前のめりで質問していたかもしれない。だって俺、この世界に来てから数年経つけど、緑茶なんて見たことも聞いたこともないよ?


「こっちの世界に茶葉ちゃばはないな」


「いやしかし、これは緑茶ですよね?」


「ああ、間違いなく緑茶だ。成分も同じだ」


「は!?え!?」


 茶ノ木も茶葉もない。そんな環境でどうやって緑茶が出てくるんだよ!そう聞いたら、


「悪いがそれは企業秘密だ。まあ、こっちに来てから緑茶なんて飲めなかっただろ?素直に楽しんどけよ」


 って言われた。


 楽しんどけって言われてもなあ。そういや、魔力ネットのシステムを作ったのもこいつらなんだよな。あの、周辺の魔力を定期的に収集して、電力のような使い方をする機器だよ。

 

 この世界に無い物を作り出す技術をこいつらは持ってるって事なんだろうけど、どうやったんだろうか?


 まあでも企業秘密っつーくらいだから、簡単には教えてはくれないんだろうなあ気になるぜ・・・。


 まあ、それは後でどうにかして教えてもらうとして。今はそれよりも、幻想神の「ずるい」って言葉の意味の方が気になって仕方ない。


「えっと話を戻しますが、自分の創った世界の一大事なのに、自分が手を出す事がずるいとか、ちょっと意味がわからないのですが・・・」


 俺は頂いたお茶を一口飲んでから澤田にそう言った。だってそうだろ?自分が創造した世界の安定が、地球からやって来た人間達とその子孫によって壊されようとしているんだぜ?


 そこに介入するのはずるくもなんともねーよ。世界を創った本人としては、正当な権利と義務だろうが。


 殺してしまうのはさすがにあれだけど、子孫が出来ないようするくらい、どうとでもなるだろうが。


「幻想神が生命を誕生させた理由が理由だからな」


「理由ですか?自分達と同じような人生を送ってもらう為ではないのですか?」


のかって意味での理由だ」


 ああ、そういう事か。そういや、何故人間を創造したのかって事については、全く聞いてなかったな。


「ゲームなんだと」


「ゲーム?ゲームって、テレビゲームとかそういうやつ?」


「そう。特定のルールを人類に設定した、人間観察シミュレーションゲームさ」


 はああああああああああ!?


 なんだそれ・・・。途中までの話だと、完全に原因は現代神にあり、幻想神はただの被害者にしか見えなかったけど、これは・・・。


「テレビゲームでいうところの追加コンテンツである「地球人の異世界への転生」を利用したら、思ってもない結果になってしまった。だからといってプログラムを改変して、自分の有利にゲームを進めるのは面白くないって所だ」


「なんですかそれ・・・。完全にゲーム感覚じゃないですか!」


「だからさっきからそう言っているだろう」


 なんだよそれ・・・。


 あれか?神様から見れば、俺らがTVゲームで街を発展させたり、コンピュータ上の住人の暮らしを眺めたりするのと同じって事か?


 ふざけんなよ!


 俺達を自分たちと同じに作ったって言うなら、それがどれだけ非道な行為かわかるはずだろうが!あったまくるなあ!


「でだ、なんで地球人が発生させた問題を解決するのに、わざわざもう一度地球人を転生させたのかって事だが・・・」


「はい」


 そこからの澤田の話も信じ難いものばかりだったよ。


 幻想神は地球人が起こした問題に対抗するために、幻想世界の住人の一部を選び、自らの存在を明らかにしたらしいんだ。

 

「お告げ」という形で、特定の人間にだけ、近い将来に起きる事柄を予言させ、それを的中させる。


 そうする事で、特定の人物を介してのみ、人間社会と関りを持つようになった。その特定の人物の一族こそが、ハイランド王国のフォンシュタイン家だ。


 幻想神はフォンシュタイン家に、次にハイランド王国が取るべき指針を与えることで、ハイランドを小国から巨大な国家へと変貌させてきた。


 しかし、幻想神の行動は目的を考えると、決して成功したわけでは無かったんだ。


 転生者とその血を引く子孫達は、特別な才能を持つものが多く存在した。


 例えば、政治面で画期的かっきてきな政策を展開する者達、無限の魔力を持つ者等、目にも止まらぬ剣技を修得した者等、世界でも目立つ才を持った者が多いのだと。


 それってもしかして、いわゆるチートってやつじゃないのか?


 残念ながら俺にはそういう特別な能力は備わっていなかったようなんだけど、やはり転生者には、なんらかの特別な能力が備わっていたらしい。しかも、その傾向は子孫にも見られるのか。


「いくら幻想神のお告げがあったとしても、実際に行動するのは人自身だ。なので、特殊な能力を持った転生者や子孫達に、フォンシュタイン家は対抗出来なかった」


「それは・・・そうでしょうね。あ・・・。もしかして地球からの転生者を再び受け入れたのって・・・」


「そう、転生者の子孫に対抗するためだ」


 確かに、特殊な能力を持つ転生者なら、転生者の子孫達と互角以上に渡り合えるかも・・・。けどさ、これ、致命的な弱点があると思うんだけど。


「ちょっと待ってください。転生者に対抗するために転生者を呼ぶ理屈はわかります。けどそれって、転生者とその影響を世界から排除するって本来の目的からして、本末転倒ほんまつてんとうになりませんか?それに、転生者達が、素直に幻想神の言う事を聞くとも限りません」


 地球からの転生者を受け入れたことで発生した問題を、再び転生者を受け入れることで解決とか、その場しのぎの案としか思えねーよ。


 2度目に呼んだ転生者達が、この世界で子孫とか残したらどうすんの?また転生者を呼んで解決すんのか?そういうのを「いたちごっこ」って言うんだよ。


「まあ、普通はそう思うよな。でも、幻想神の試みは9割は成功していると言って良い」


「は?この無茶苦茶な計画がですか?」


 いや、TVゲームだったらわかるよ。自分の思い通りに操作すればいいだけだからね。


 けど、幻想神が操ろうとしているのは、自分の意思というものを持った知的生命体だぞ。しかも、自分達に似せて作った。どうやったら成功するんだよ。


「適格者システム。これが、この非常にアンバランスな計画を成功させている理由だ」


「適格者・・・」


 この世界での俺の人生を色々と狂わせてくれるこの言葉。ティルデの説明では、ハイランドに侵攻しようとしている「南リップシュタート」の現代神と名乗る組織に対抗する為の手段らしいが・・・。


「適格者ってのは、現代神を倒すための集団じゃない。、地球からの転生者達で構成された組織されたなんだ」


「転生者の子孫を殺す!?」


「そうだ。この世界に不必要な転生者の血縁者を抹殺する為に訓練されている。そして、失格の烙印を押された適格者とは、任務に必要な能力が無いと判断された転生者を指す」


「あ!もしかして僕が失格になったのって・・・」


「あんたの場合、戦闘が出来なくなった事が原因だろうな」


 俺はトラウマによって、対人対モンスターの両方で戦闘が出来なくなってしまった。それが、失格の原因になったって事だ。


「そして、失格者となった転生者は、幻想神にとっては氾濫の危険性を持った、害となる存在の可能性が高い。なので、フォンシュタイン家で処分される。反抗的な奴もだ」


 処分・・・。そういえばマルセルが言ってたな。


「失敗した適格者は、世界に害をなす存在に成りかねん」


 って。


 あれは、こういう意味だったのか・・・。


「もちろん、適格者も、用が済んだら処分されるけどな」


「適格者も!?何故です!?幻想神に代わって、転生者の子孫を排除してくれるんですよ?処分する意味はあるんですか?」


「そりゃああるさ。適格者は「転生者」だからな。この世界の住人になってもらっては困るんだよ。そうする事で、地球人をこの世界に呼ぶ事で起こる二次被害を防いでいるんだ」


 なんだよそれ・・・。都合の良いように使われて、用が済んだらポイ捨てかよ!本当にゲーム感覚じゃねーか。いや、ゲームしてる時は、もうちょっと使ってるキャラクターに愛着くらい湧くぞ!


「奴は狡猾だぜ。地球で弱っている人間を事故死させ転生させる。そして、あたかも事故死した自分を転生により救った風に錯覚させるんだ。そりゃ、もう一度人生をやり直せると思ったそいつは、涙を流して喜ぶだろうさ」


 その言葉を聞いた俺は、自分が転生させられた時の事を思い出した。


 あの時俺は、事故死した瞬間を見せられる事によって、自分の死を確信した。そして、あの神様と名乗るあいつに「この世界で生きていくか?」と尋ねられ、感動の涙を流したんだった。


「俺をこの世界に転生させた神様がいるんだけど、あいつが俺を殺して、この世界に「自分の駒」として呼び寄せたんですか?」


「俺はそのやり取りを見てはいないが、まず間違いないだろう。俺達の時とほぼ同じだ」


 俺は答えが分かってるとしても聞かずにはいられなかったよ。だってあんまりじゃないか!


 自業自得とは言え、日本での生活に幻滅していた所に、異世界の神が救いの手を差し出してくれたと思ったら、実は自分の駒として呼び出しただけだったなんて・・・。


 しかも、異世界人である俺は、この先もずっと命を狙われ続けるんだ。同じ異世界人でありながら、幻想神の駒となった適格者達に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る