第53話 異世界転生の条件
「自己紹介は・・・別にいいか。どうせユリアーナから色々聞いてるんだろ?」
俺が覚えのない
ユリアーナさんは余計なお話が多くて、あなたの事は全く話してくれてませんよ?とか言うと、面倒なことになりそうだったので、「お名前と立場ぐらいですが・・・」と一応肯定しておいた。
とりあえず、俺が澤田に感じている違和感の原因追及については一旦置いておこう。
「なら本題に入ろうか。とは言っても、あんたの質問に俺達が答えるくらいしか出来ないが」
「いえ、そうして頂けると幸いです」
実際、あっちの都合で色々話されると、俺自身の考えがまとまる気がしないんだ。向こうが自分たちに都合の良い話しか言ってこない可能性もあるしね。
「まあ、そうは言っても、あんたの一番聞きたいことはあれだろ?「一体俺たちが何をやろうとしているか?」だよな」
澤田は俺が質問する前に、こちらが一番聞きたいであろうことを言ってきた。
確かに、それを聞かなきゃ俺がここにやって来たことの意味はなくなってしまう。と言うか、ここで教えないとか言われたら暴れるぞ俺?
でも、それが一番聞きたい事では無いんだよな。
「確かにそれを教えて頂けないと、僕がここに来た意味の半分くらいは無くなってしまいますね」
「へえ、てっきり俺は、それがあんたの一番聞きたいことかと思ってたんだけどな。半分ときたか。じゃああと半分は何だ?俺たちの目的を知ることと同等の疑問とは何だ?」
厳密にいえば半分じゃあない。むしろ彼らの目的を知るという事は、俺が一番知りたいことに比べれば10分の1くらいの重要度かもしれない。
よく見ればミュリエルとユリアーナは、これまでに見たことが無いような真剣な目で俺を見ている。
いやでも、俺がこれから聞こうと思っている事は、俺と同じような転生者なら誰しも疑問に思うことだぞ。これを聞かない事の方が不思議で仕方ねーよ。
「では、質問させてもらっても?」
「どうぞ」
澤田は、俺に質問を促すゼスチャーを見せる。なので俺は、俺がこれまでずっと疑問に思っていた事を質問することにする。
彼らがその答えを知っているとは限らないが、彼らのこれまでの行動に
「私は、いえ、私達転生者は、なぜこの世界に転生してきたのでしょうか?」
これが俺がずっと心に抱いていた疑問だ。
ここに転生してきたとき、神様は俺が死んでこの世界に転生してきた事は話してくれた。けどさ、なんで転生させたのかは聞いてないんだよね。
以前ハイランドで、俺は適格者候補として育成されていた。だから、適格者候補として転生させられたのかと最初は考えたんだ。
でもさ、「なんで俺なの?」って疑問が
だって、世の中俺よりすげえ奴いっぱいいるわけで、適格者として育てるとしても、そういうすげえ奴らの方が良いに決まってるじゃん。
だから「なんで俺なの?」って疑問が、ずっと心にあったんだ。
こっちの世界にきたばかりの頃は、余裕の無さからそんな事
「その質問をされるとは思ってもみなかったぜ」
澤田はちょっと驚いた顔をしていた。
「そうですか?いや、普通知りたがるでしょ、なんで転生してきたのかって」
「この世界に転生される条件を知っていれば、なんで転生したのか?って疑問の優先度が必然的に低くなる事は容易に理解できるさ」
「転生される条件があるんですか!?」
俺は本気で驚いていた。いや、自分から聞いといてそれはどうなんだ?って思うかもしれんが、「ある」と言われれば、そりゃあ驚いてしまうだろう。
「ああ、決してランダムではなく、ある条件により転生者は決まっているんだ」
「なんですそれは?」
「教えても良いが、へこんだりするなよ?俺達・・・ユリアーナは違うが、俺とミュリエルだって条件は一緒なんだからな」
え?聞くとへこむような条件なの?
どうしよう、あんまり聞きたくなくなってきた!例えば・・・40過ぎて童貞でオタクとか・・・。
いやだああああああああああああああああああああああああああああ!
あ!でもその条件だったら、こいつらも一緒って事か!?いやいやいや落ち着け俺!
「と、とりあえず条件を教えてください」
完全に取り乱していた俺を怪訝そうに3人が見ていたので、俺はその条件を聞くことにした。
なーに、俺の心が折れるような事案が発生しても、その条件はみんな一緒なんだから恥ずかしがることはない!
あーけど、ユリアーナには笑われてしまうのか・・・。
「じゃあ言うぞ?その条件とは・・・」
ゴクリ。
やべえ、のどが鳴っちまった。絶対聞こえたよな。
「その条件とは、現在社会に適合出来ず、夢も希望もない、絶望した状態にあることだ」
「あ・・・」
言われた瞬間、現代日本で生活した最後の日を思い出した。
特に目立った特技も無く、対人スキルがあったわけでもない。趣味はアニメとゲーム、そしてアニソンだ。40過ぎて彼女が出来たこともなく、当然異性とキスしたことも手を繋いだ事もない。
それでもなんとかしがみついていた会社からリストラされた。両親は他界しているので頼れない。妹がいるが、俺の事を毛嫌いしているので、結婚式以来、会ったのは法事の時だけだ。
そんな絶望的な状況をまっすぐに見ることも出来ずにいた会社からの帰路、俺は落下してきた看板の下敷きになって死亡した。そして気付いたら、この世界に居たんだ。
「おい大丈夫か!しっかりしろ!」
その声で俺は我に返った。よく見ると3人が俺の事をのぞき込んでいる。どうも自分の過去に完全に潜ってしまっていたようだ。
「あ、すみません!ちょっと動揺してしまいました・・・」
取り繕っても仕方がないので、ありのままの心境を語った。久々に昔の事を思い出したけど、へこまずにはいられねーよ。
「あまり「気持ちはわかる」とか言いたくはありませんけど、私達も同じような境遇ですしね。今のあなたの心境はよくわかりますわ」
俺の顔をのぞき込んでいたミュリエルがそう話す。
そういやこいつらも転生者だから、理由は違うけど現代社会に絶望していたんだよな。
「転生者は、現代での生活に嫌気がさしていた奴らばかりなんだ。つまり、転生者にとって、この異世界は楽園みたいなもんなんだよ」
楽園か・・・。確かに、あの絶望的な状況から解放されることが分かった瞬間、俺はすげえ喜んだよ。もう一度やり直せると思ったら、あふれ出る涙をこらえることが出来なかった。
「だから、今のあんたのような状況に陥った時、普通は自分の身の安全が保障されるような質問をしてくるんだ。例えば俺たちの目的を知ることで、それに対処したいとかね」
なるほど、確かにこの世界が最後の自分の砦だと自覚している転生者にとっては、転生した理由なんてどうでもいいかもしれんな。今の安定した生活を守りたいことが一番だろう。
「だがあんたは、現代に絶望していた転生者であるにも関わらず、転生の理由が知りたいときたもんだ」
「いやしかし、それは知りたいと思いませんか?自分の知らない所で決められた異世界への転生を、理由も知らずに生きていくとか気持ち悪いです」
「ははっ、確かにな!」
澤田は俺の言葉に笑いながら同意する。
「いいだろう!あんたには全てを話すことにしよう」
「そうですわね、私も賛成ですわ」
「はーい!私もー!」
それぞれが、澤田の案に賛成の意を示していく。あれ?これってテストか何かだったの?
「試したみたいですまん。だが、いくら不適格者とはいえ、安易に全てを話すわけにはいかなかったんだ。だが、あんたはかなり思慮深い性格な奴のようだし、信頼も出来る」
確かに俺は疑り深い・・・最近は特にそうかもしれんが、信頼できるとはなんぞや。そう思ったが、信頼されてるならそっちの方が都合がよいので黙っておくことにしよう。
「まず、あんたに全てを話す前に、転生者にはタイプAとタイプBがいることを話しておこう」
「転生者に種類があるんですか?」
「ああ。タイプAは、今はもう、生きている者が誰もいないほど昔に転生してきた者達だ。そして彼らの特徴は・・・」
「・・・特徴は?」
「現代社会に絶望し、自らの命を絶った者達ということだ」
「・・・」
つまり自殺した人達ということか・・・。社会に絶望し、自ら命を絶つ・・・。もしかしたら、俺もそうなっていたかもしれない。
あれ?ではタイプBはどういう基準なんだ?
「そしてタイプB、つまり俺達やあんたの事だ」
「僕もですか?」
「ああ、そうだ。あんたもタイプBになる。条件は、現代社会に絶望している所は同じだが、最後が違う。タイプBは全員が事故死だ」
「え?」
確かに俺は看板の下敷きになって死んだ。間違いなく事故死だ。そして彼らもなんらかの事故で死んだのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・。
なあ。なんで澤田は、俺が事故死だってわかったんだ?俺は一言も語った覚えはねーぞ。もちろんユリアーナにもだ。
「なんで俺がお前の死因を知ってるのかって考えてる顔だな」
澤田が苦笑いをしながらそう話してきた。しまった・・・。そんなに顔にでてたんだろうか・・・。
「まあ、それも含めて全部説明してやるよ。そう、全部な」
そしてついに、転生者と彼らについての澤田からの話が始まった。
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