第13話 渡る世間は変態ばかり
「1に体力2に体力!3・4が無くてごめんなさい!」
さっきからグラウンドを走りながら、ずっとこのフレーズを唱和させられている。
とにかく剣を振るう者ならば、剣を扱える筋力と体力を鍛えなければいけない、と言うことで、まずは体力作りがカリキュラムの基本となっているようだ。
俺としては、カッコいい剣の扱い方やテクニックを早く教えてもらいたい所なのだが、体力がない事がどんなに大変な事なのかは、この前の森での戦闘で嫌というほど味わっているので、ここは素直に従っておくことにする。
それにしても、なんなんだよ、このさっきから唱和し続けているフレーズは。最後のごめんなさいは、普通は「体力」でいいじゃんか。何が何でも屈服させてやろうという、ヴィルヘルミーナ先生の「ドS」魂が見え隠れするぜ・・・。
だって、ごめんなさいって言葉をみんなが復唱する度に、顔を真っ赤にして興奮してやがるもん、あのヘンタイ先生は。
このヴィルヘルミーナ先生、あー面倒だからヴィルちゃんでいいや。
このヴィルちゃん、普段はとても温厚そうなすげえ優しい美人講師なのだが、ひとたび授業に入ると「Sモード」に突入するらしく、「豚」だの「底辺」だの、お下品な言葉のオンパレードである。
はっきり言ってヴィルちゃんや、紹介してくれたティルデが超が付くほどの美人じゃなかったら、俺はとっくに逃げ出してたね。もはや、「この二人との親密度を上げたい!」という願望だけが、俺をこのSM地獄に耐えさせていると言っても過言じゃないと思う。
俺は日本に居た時も、エロゲを買う時はSMモノだけは避けてたんだ。だって痛そうじゃんあんのなの。
なので、目の前の俺と同い年くらいの少年が、ヴィルちゃんから「何とろとろ走ってんのよ、こののろまな豚があああああ!」と言われて、うっとりした表情になってる気持ちなんかこれっぽちもわからないのだ。
そして10週ほど生徒を罵り続けた満足感からか、満面の笑みを浮かべてヴィルちゃんは授業の終了を宣言した。
「おい!そこの黒い髪の変わった奴!」
本日の授業も終了したし、さっさと宿に帰ろうとしていたら、さっき俺の前で走っていた少年に呼び止められた。黒い髪の少年は俺しか居ないので、たぶん俺のことだろう。
「俺の事?」
「他に誰がいるんだよ?」
ですよねー。最近気づいたんだが、この世界で黒髪の人種を見かけたことがいまだ無い。ティルデによれば、全く居ないわけじゃないが、かなり珍しいのだとか。
「で、何か用ですかね」
「俺の名は、アルフォンス・フォン・ゼークトだ!」
「はあ、コレナガシンです」
「お前の名前なんかどうでもいい!」
じゃあなんで名乗ったんだよ!てか、なんなのこいつ。俺は早く帰りたいんだよ!帰ってティルデとの楽しいひとときを過ごしたいんだよ!
あ、言ってなかったけど、ティルデも俺と同じ宿の一室を住まいとしていて、最近は晩ごはんなんかは一緒に食べることが多いんだティルデは普通にしてれば、腰程まである真っ赤な長い髪と、くっきり二重まぶたの大きなお目目が素敵な、美人さんである。
なので、宿の食堂で一人で食事をしていると、言い寄ってくる奴も多いらしく、俺が一緒に居ることでかなり助かってるんだと。まあ俺は言い寄ったりしないけどね!言い寄り方なんかわからんし(泣)
「お前、ヴィルヘルミーナ先生から特別扱いされてるからって良い気になるなよ!」
「は?」
俺がティルデさんとの晩ごはんのシーンを回想していると、こいつは妙なことを言い出した。俺が特別扱いされてるだと?一体何言ってんの?俺なんか、みんなと一緒に走らされ、
「お前今朝、先生からきついお仕置きを受けてただろ!?あれはな・・あれはな・・先生がお気に入りの生徒にしかしないプレイなんだよ!」
なん・・・・だと!?
あれ、初めて授業を受ける生徒の中の、妙なプライドをへし折ってしまう的なイベントだとてっきり思っていたんだけど、あいつの単なる趣味だったの!?
「俺なんかな、俺なんか、あのプレイを受けるまでに半年もかかったんだぞ!それなのに入学初日にあんなご褒美プレイさせてもらいやがってええええええ!」
「あれがご褒美とか、お前何言ってんの!?」
俺がそう言うと、お前何言ってんの?みたいな顔を俺に向けてくるゼークト少年。いやいやいや、俺のほうがお前何言ってんの?だよ!
しっかし、今朝受けたあのお仕置き、あれ、ご褒美プレイだったのか・・・。
今朝、俺がこの職業訓練所に初登校?した時のことだ。俺は皆とは別にヴィルちゃんに面談のため教室に呼び出されていた。教室には、白のマントを羽織って立っているヴィルちゃんが居た。
これ、完全に女王様プレイを俺にやる気満々ですよね!
俺は全くSMに興味はないんだけど、これを拒否したりして先生のご機嫌を
もう色んな事がありすぎて、正常な判断を下せる状態では無かったんだろう。
「あの、優しくお願いします・・。」
と、弱々しくつぶやいた俺に、ヴィルちゃんは喜色満面になっていた。
「あら?豚はいつから人間の言葉を話すようになったのかしら?」
「ぶ、ぶひい・・・」
「あら、聞こえないわね」
「ブヒイイいいいいいいいいっ!」
それからの1時間は、そりゃあ悲惨なものだった。
「豚、あなたは魔法剣士とかいう、糞の役にも立たない職業って事でいいのかしら?」
「ブヒッ」
「豚らしい、惨めな職業を選んだものね!」
「ブヒイイイいいいいいい!」
あれだ、ひどい言葉で罵られたら、大きな声で喜びを表さなきゃいけないらしい。
普通に「ブヒ」とか返事してたら、ムチでピシッっと床を打たれた。こええよこの人。
しかも、この質疑応答を行っている間、ずっと四つん這いになった俺の上にこの人座ってるんだよ。
そりゃ最初は、ボンテージに網タイツの美女が、俺の背中に座っている事実にめっちゃ興奮しましたよ。40歳で童貞だからな!
でもな?それを1時間もやられてみろよ。足腰はガクガクになるし、床に面している膝はすげえ痛いわで、拷問以外の何物でもなかったね。そして1時間やりとげた後の先生は、すげえつやつやしてたよ・・・。
「では、シン君、今日からよろしくお願いしますね?」とニコッと笑って去って行きやがった。やべえよあの女。ティルデなんかより全然やべえよ。
そんな事があったのが今日の朝だった。てか、あれを、この「ゼークト」って奴に見られてたとは・・・恥ずかしいブヒッ!
「とにかくだ!俺はお前なんかには負けんからな!ヴィルヘルミーナ様に一番口汚く罵られるのはこの俺だ!」
左手を腰に当て、右手の親指で自分を指しながら堂々と宣言するゼークト少年。
「お前頭大丈夫かよ・・・」
思わず口走ってしまった俺の本音に、ゼークト少年は「?」マークを浮かべて、首を傾げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます