午後15時27分 羽田空港跡地

 ヴェラ達を拾い上げた装甲車は暫く走り続け、やがて辿り着いた場所は彼等が最初に降り立った羽田空港の跡地だった。あの時は無数のまもりびとに襲われながらも、命辛々抜け出したものだ。

 出来ればアレは悪い夢だったという事にして封印したいのも山々だが、罅割れたアスファルトの上に付着した夥しい血痕が事実だと物語っている。だが、その肝心の死体は何処にも見当たらない。どうなったのかは……まもりびとの正体を知るヴェラ達は嫌でも予想が付いてしまう。

 そしてヴェラ達は移動の最中に、一時は離れ離れになったサムから自分達がどのような行動を取り、そして何故ヴェラ達の居た病院に辿り着いたのかという冒険譚の一部始終を聞かされた。



「あの後、俺達はユグドラシルの森に沈んだ廃墟を彷徨うように走り抜けながら、他の仲間達を探し続けた。ヴェラの発見で化物に対抗する手段が分かった今、軍人よりも身内を見付けた方が効率的だからな。だが、結局見付かったのは50人余りの内12人だけ。ヴェラ達も含めれば16人だ」

 単純計算でも30人余りの会社仲間が、まもりびとの襲撃によって命を落とした事になる。あの化物達の巣窟である森に足を踏み込んだ以上、誰かが犠牲になる確率はゼロではない。寧ろ高い方だ。しかし、それでも大勢の身内が死んだという事実は彼女等の心に暗い影を落とした。

「本当なら、こんなクソッタレな島国からは一秒でも早く出ていきたい所だが、脱出する方法が無けりゃ何も出来ない。かと言って、救援を呼ぼうにも肝心の海軍は役立たずの老犬のように動こうとしない」

「まさか、海軍に救援を求めたんですか?」

 ヴェラが驚いた声色で尋ねると、サムは「ああ」と苛立たし気に肯定した。

「実は情報を集める前に、一度空港に戻ったんだ。俺の記憶が正しければ、物資の他に通信機材が持ち込まれていた筈だってな。そして見事に俺の記憶力は的中し、早速向こうに救援要請と状況説明をしたが、こっちの話を向こうは真剣に取り合っちゃくれなかった。あの無駄にデカい鷲鼻を殴り潰してやりたいって気持ちは前々からあったが、あの時が最高潮だったな」

 どうやらサムもデカい鷲鼻ゲイリー大佐に事情を訴えたらしいが、まともに相手をして貰えなかったようだ。しかし、だとすると妙だ。ヴェラが初めて海軍と通信を遣り合った時、向こうは依然として日本の状況が掴めないと文句を漏らしていた。

 此方の通信が後だろうが先だろうが、どちらかの情報が先に渡っていれば、向こうは二つ目の情報と照らし合わせて、総合的に真実を見抜いていてもおかしくない筈なのだが……。

 まさか、本当は化物が怖くて上陸する勇気も無い腰抜けなのだろうか? そんな疑問がヴェラの頭に過ったが、今はサムの話に耳を傾ける事に専念した。

「そして俺達は仲間を増やしながら、ユグドラシルに関する情報集めに勤しんだ。しかし、集めれば集める程にキナ臭い事実が少しずつだが分かり始めた」

「キナ臭い事実?」

 オリヴァーが訝し気に問い掛けると、彼はポーチから万年筆を取り出した。しかし、それはヴェラ達も見覚えのある万年筆型のボイスレコーダーだ。

「それは……?」

「これはカツキ・セラと呼ばれる、Gエナジー研究に携わっていた科学者の研究施設で発見したボイスレコーダーだ。彼はNG社の中でも高い地位に就いており、その地位を活かしてGエナジーを様々な角度から研究していたそうだ。だが、彼はある疑問に気付いてしまった」

 そこで言葉を中断すると、彼は手にした万年筆型のボイスレコーダーのキャップを取り、音声再生のボタンを押した。するとボイスレコーダーから落ち着いた壮年紳士の声が流れ出て来た。


『私はGエナジーの研究を続けているが、未だに解明出来ない謎がある。それはユグドラシルを始めとするGエナジーの元となった植物が何なのかだ。彼等が表向きに発表した情報では、Gエナジーを生み出すユグドラシルは地球上に存在する植物を元にして生み出されたとされている。

 しかし、このユグドラシルを始めとするGエナジーに含まれた植物細胞と、現在確認されている植物細胞とを一つずつ比べてみたが、どれもこれも合致しない。これは決して遺伝子操作のせいで細胞が変化したとか、そんな単純な理由ではない。

 ハッキリ言おう、これは地球上に生息する植物細胞とは似て非なる別の植物細胞組織だと。つまり、これは地球上に存在しない未知の植物細胞を使って生み出されたと考えるのが妥当だろう。

 私が辿り着いた答えに対し、NG社は何も答えてくれない。だが、その沈黙こそが答えを認めているようなものだ。また私に対する風当たりも日を追う事に強さを増しているという事実が、返って私の確信と本社に対する疑念を強まらせている。

 そして最近、トリイ博士が見付けたGエナジーによる変異体の誕生は、私の中にある恐怖に拍車を掛けている。もしも、あのような変異体と呼ばれる異形が人類にも感染したら……それこそ日本の、いや世界の終わりだ。そうなる前に誤ったGエナジーの研究を止めるよう、警鐘を鳴らさなければならない。

 だが、それでも最悪の事態が起きた場合、あのユグドラシルの元となった植物を突き止めるのが急務となるのは間違いないであろう』


 ボイスレコーダーから流れていた声が止まり、サムは万年筆をポーチに仕舞い込んだ。そして強張った顔色を浮かべるヴェラ達に問い掛けるような視線を投げ掛けた。

「これが俺達が手に入れたカツキ・セラという男のボイスレコーダーだ。何が言いたいかは……流石に分かるよな?」

「カツキ・セラはGエナジー研究を推し進めるNG社の最高幹部に属しておきながら、Gエナジーが誕生した経緯に付いて懐疑的だった。そして謎を追っている最中に、この災厄に遭って命を落とした……という事でしょうか?」

 ヴェラの出した答えに、サムは何とも言い難い表情を浮かべて頭を斜めに頷かせた。

「前半のGエナジーに対し懐疑の念を抱いていたのは正しい、がしかし後者の命を落とした経緯に着いては不正解だ。このボイスレコーダーを見付けた時に、あの人の死体を見付けたが、白骨化していた上に頭を撃ち抜かれていた。俺は専門家じゃないが、ありゃ死後三年近くは経過しているな」

「三年?」トシヤが虚を突かれたかのように眉を跳ね上げた。「まさか、その人は災厄後も生き抜いていたと言うんですか?」

「そう見るのが妥当だろうな。彼の居た研究所には、化物に関するデータや資料が山のように積まれていた。恐らくアレを研究する事で、弱点や解決策を見出そうとしたんだろう。しかし、見付ける前に殺された……もしくは見付けた直後かもしれない。そして彼の使っていた研究施設のパソコンに、この病院の位置座標があった。そして早速向かったら、偶然お前さん達と出会ったという訳だ。運命の女神に感謝しないとな」

「そのデータは見付かったんですか?」

 スーンが期待を込めて尋ねるが、サムは諦めを込めて首を横に振った。

「残念だが、データは無かった。厳密に言えば、その人が亡くなる直前のデータが幾つか抜き取られていた。つまり、俺達や彼以外の第三者による仕業と見て間違いないだろう」

 第三者という身元も出自も不明だと言わんばかりの口振りだが、今の日本でそんな真似が出来るのは一つしかいない。

「大魔縁……」

 ヴェラの呟きは独り言のように小さかったが、密室にも似た装甲車の空間では研ぎ澄まされた響きを持って傍に居た人々の耳に入った。それは向かい合う形で座っていたサムも同じらしく、彼女の意見に同意するかのように頷いた。

「俺も同意見だ。あの宗教組織の暗躍があったに違いないと考えている。しかし、あいつらは一体何なんだ? 俺達を見る度に武器を掲げて歓迎パーティーを仕掛けてきやがる。こっちは連中の持て成しで腹が一杯だぜ。あと化物達の正体も分からず仕舞いだしよ。そっちは何か知っているのか?」

 遠回しに「自分が手に入れた情報は此処までだ」と告げると、サムは会話の主導権ボールをヴェラ達に投げ渡した。

 主導権を渡されたヴェラも、これまでの旅路の中で見付けた事実や情報をサムに打ち明けると、最初は真剣な面持ちで聞いていた彼の表情に険しさが帯びていき、最終的には衝撃と絶望が綯交ぜになった顔色を浮かべながら装甲車の壁に凭れ掛かった。

 暫しの沈黙の後に何か言おうと言葉を探すも思い浮かばず、漸く出て来た言葉は――

「マジかよ……」

――と、気の利いた台詞でもなく、反応に困った時に告げる常套句であった。しかし、どれだけユニークやジョークのボキャブラリーに富んでいたとしても、彼女達の話を聞けばサムみたいな反応を示すのは無理からぬ事だ。

「つまり何だ。各国が羨む夢の超エネルギーは、実は生物を化物に作り変えるバイオハザード的な一面も兼ね備えていましたって事か? そして日本がユグドラシルに覆われた事で、その被害は益々拡大してしまいましたと? しかも、NG社に所属していた大幹部達の一部は、災厄が起こる前から化物の実験と研究をしていたと?」

「まぁ、概ねそんな感じですね……」

「勘弁してくれよ……。欠陥レベルがどうのこうの言う以前の大問題じゃねーか。そんな問題を世界に向かって公表してみろ。リコールどころじゃない、世界中がパニックに陥るぞ」

 今の話が嘘であってほしいと願ったものの、スーンが肯定した事により事実だと認めざるを得なかった。そしてサムの懸念している通り、この問題が公表されれば世界中がきっとパニックを引き起こすだろう。

 しかし、このままバイオハザードという危険と隣り合わせにしたまま、Gエナジーをエネルギー資源として使い続けるのは危険だ。何が何でも訴えて、止めるべきだろう。しかし、海軍は此方の話を信じちゃくれない。となると、残された手段はまもりびとに関するデータを獲得して、彼等に直接見せ付けるしかない。

「だが、そうなると大魔縁……だったか? 連中を相手するのは難しいぞ。空港に残された海兵隊の武装を使っても、とても16人だけじゃ満足に運用出来ないだろうし……」

 サムがスキンヘッドの頭を捻りながら問題点を指摘すると、ヴェラから強い意志を感じさせる明確な言葉が飛んできた。

「それに付いてなんだけど、私に考えがあるの」

「考え?」

「そう言えば総合病院に向かう前にも、そんな事を言っていたな。一体何をする気なんだ?」

 オリヴァーの台詞にサムも興味を抱いたのか、「ほぉ?」と口元に薄い笑みを張り付けながら身を乗り出し、彼女の方へ顔を近付けた。

「そりゃ興味があるな。是非、聞かせてくれないか?」

 サムの台詞はヴェラ以外の全員の気持ちを代表するものであり、現に装甲車に乗ったほぼ全員の視線が彼女に向けられていた。そして彼女はこう前置きして、自分が考案した策を述べ始めた。


「この作戦の成否は、海軍に掛かっているわ」――――と。



 そして現在、ヴェラ達は最初に降り立った空港に戻って来た。あの時の混乱が今し方起こったかのような無残なままの状態だったが、それ故に装備や道具が壊されずに無傷だったのは不幸中の幸いと言えよう。

 ヴェラ達は早速、サムが使ったという通信器具の置かれた場所へと向かった。濃緑色のテントへと案内され、中を潜れば折り畳みの机の上に小型化された最新鋭の通信装置が所狭しに並んでいる。

 その前に座って通信装置にスイッチを入れようとしたが、ヴェラの手は寸前の所で止まりオリヴァーの方へと向いた。

「悪いけどオリヴァー、貴方が代わりに説明してくれる?」

「は? 何でまた急に?」

「忘れたの? 私がゲイリー大佐と通信で会話した時、最後に暴言を吐いてやった事を」

 そう言われるとオリヴァーは、「ああ、そういえばそんな事を言っていたな」と今更ながらに思い出した。現場を知ろうともしない相手の言動に苛立ち、思わず口から飛び出してしまったとは言え、暴言を吐いた後で再び同じ人物に通信を入れるのは、やはり気が重いのだろう。

 ヴェラの心境を汲んだオリヴァーは、彼女に代わって装置の前に腰を下ろすと装置のスイッチを入れ、備え付けられたマイクに向かって呼び掛けた。

「此方、NGA所属のオリヴァー・ハンスだ。聞こえているか、アメリカ海軍」

『―――此方、アメリカ海軍所属の原子力空母マッカーサーだ。聞こえている、どうぞ』

 暫しの空電の後に、通信士のものと思しき滑らかなテノール声が通信機からやって来る。通信が繋がった事実にオリヴァーはホッと胸を撫で下ろし、直ぐに本題を思い出して気持ちを緊張と覚悟で引き締めた。

「此方は現在、ユグドラシルのデータを手に入れる為の作戦行動中だ。しかし、問題が起こった。これに対処する方法が見当たらず苦慮している」

『オリヴァーと言ったな? 私はマッカーサーの艦長を務めるゲイリー大佐だ。何が起こった?』

 耳障りの良いテノール声から聞く人の精神を逆なでるような横柄に満ちた威圧的な声へと変わり、ヴェラの顔色が忌々し気なものへと変貌する。尤も彼女が表情を変えたのは、声だけが理由じゃないだろうが。

 背後から伝わる怒気を薄っすらと覚えながらも、オリヴァーは慎重に言葉を選びながら会話を進めた。

「此方はユグドラシルの製造法とGエナジーに関係する研究データを保管している場所を発見しました。元NG社の本社だった建物です。ですが、そこは現在大勢の日本人が占領しています」

『日本人が占領しているだと?』

「はい、おまけに大部分が自衛隊から奪ったと思われる銃器や戦車などで武装をしており、とても近付ける状況ではありません。また彼等はユグドラシルを神聖化する独自の宗教組織を作り上げており、我々をユグドラシルの製造方法を奪おうとする異端者と見做し、徹底的に排除する構えを見せています」

『何が望みだ?』

 その言葉を切り出された瞬間、オリヴァーは肩越しにヴェラを見据えた。そして彼女がコクリと首を縦に動かしたのを見て、要求を突き付けた。

「其方に残っている友軍を寄越してください。友軍の火器と奇襲で注意を逸らした隙に、我々が突入してデータを入手します」

『その方法で間違いなくデータを入手できるのだろうな?』

 通信機越しから聞こえるゲイリー大佐の声には、人生を長く生きてきたが故に身に付いた猜疑心が詰まっており、返答次第では応援を寄越さぬ事を示唆していた。無意識にオリヴァーがゴクリと固唾を飲み込むが、彼は胃液も吐き出しそうな緊張感に耐えながら言葉を絞り出した。

「少なくとも、本社にあるデータベースに直接アクセス出来る術は私達しか持ち合わせていません。仮にデータが手に入れられなければ、責任は私が負います。信じて下さい」

 そう告げると共に暫しの沈黙が流れ、全員が通信機一点に目線を寄越した。まるで周囲の時が止まったかのような静寂さが広まりつつあった時、漸く応答が返って来た。

『分かった、友軍を寄越す。此方が敵の注意を引き付けている間に、貴様達はNG本社ビルに突入しろ。但し、絶対に失敗するな。良いな?』

「はい、分かりました。それと作戦開始時刻ですが、本日の21時にお願いしたいのです。此方は現在、羽田空港にて補給を行っています。それが済み次第―――」

『補給だと? 貴様達の腹ごしらえに我々が付き合う理由など無い。作戦は本日1900時に開始する。それまでに移動を含めた準備を完了しておくように。以上』

 ぶっきらぼうと言うよりも冷淡に告げると通信が切れ、同時にオリヴァーは緊張の糸が緩んで肺の奥底に溜めた息を一斉に吐き出した。最後の方は少し苛立ったような反応だったものの、無事に会話が終わると彼の肩にヴェラの手が乗せられた。

「お疲れ、オリヴァー。よくやったわ」

「やれやれ、もう二度とあんな偏屈爺と会話してやるもんか」

「でも、これでヴェラさんの予想通りに事が運びそうですね」

 ヴェラが考えた策とは、有り体に言ってしまうと海軍の戦力を丸々利用してしまう事だ。今オリヴァーが要求したように海軍の戦力を以てして大魔縁の目を引き付けている間に、自分達は本社ビル内に突入してデータを手に入れようという腹積もりだ。

 海軍が協力しないのではという不安もあったが、ヴェラはこの可能性が低いと信じていた。何故ならまもりびとと言う化物の存在は眉唾物と切り捨てられてもおかしくないが、現実に存在する日本人となれば話は別だ。

 ましてや喉から手が欲しがる程のデータを、日本人立が死守しているとなれば、手段を選ばずに何が何でも奪取したいと考えるに違いないとヴェラは踏んでいた。そして見事に目論見は的中し、ゲイリー大佐は自分達が持っている残りの戦力を寄越す事を約束した。

 しかし、ゲイリー大佐には悪いが、ヴェラはユグドラシルのデータを彼等に渡す気なんて更々なかった。ユグドラシルを始め、Gエナジーが日本を取り巻く悍ましいバイオハザードを生み出す根源である危険な物質だと分かった今、アメリカに日本と同じ轍を踏ませる真似は避けねばならない。

 その為に、ヴェラはまもりびとに関するデータ以外は全て処分しようと考えていた。例えそれが原因で自分が責められようが、世界を救う為ならばアメリカの利益を溝に捨てるなんて屁でもない。

 そして何よりも、大魔縁に連れ去られたミドリを救出する……それが今のヴェラにとって最優先の目的であった。

「しかし、19時から作戦開始となると、このユグドラシルの森の中を移動する時間を考慮すると、補給や整備を受ける時間も長くはありませんね」

「そういう事だ。ヴェラ達は今の内にコングとヒートホークの整備をしておけ。このテントから東に20m離れた場所に必要な部品は揃っている。車の燃料補給は俺達に任せろ」

「ええ、任せたわ」

 そう言うとサムは数人の仲間を連れて車両の補給へ向かい、ヴェラ達も19時の作戦に向けて自分達の装備品の整備を行うべくテントを後にした。



 整備や修復を終えて、ヴェラ達が来ていたコングと唯一の武装であったヒートホークは新品同様の輝きを取り戻した。数が少なくなっていた斧刃の予備の補充も済み、万が一にまもりびとに襲われても丸腰になる心配は解消された。

 また大魔縁が本拠地として構えている元NG社本部に突撃するという事もあって、それまでヒートホークだけだった武装に加えて、アサルトライフルや手榴弾と言った火器も装備する事となった。これらは海兵隊が装備する筈だった物だ。スーンみたいな火器の扱いに慣れていない素人にも装備を与えられたが、丸腰であるよりかは遥かにマシだ。

「準備は良いな?」

 サムの言葉に全員が了解を意味するコールをディスプレー上に送り、それを受け取った彼は威勢よく叫んだ。

「さぁ、行くぞ! さっさと終わらせて、一刻も早くこのクソッタレな島国から出ていくぞ!!」

 サムを始めとする仲間達がチームごとに黒塗りの装甲車に乗り込み、ヴェラ達のチームも最後の四台目に乗り込み発進した。アスファルトの凸凹とユグドラシルの蔦を乗り越える感触を体に感じながら、ヴェラはひっそりと内心で誓った。

(待っててね、ミドリ……。絶対に助けるから……!)

 そして車は木々の間を潜り抜け、マサル・ホンダが待つ大魔縁の総本山―――T-21旧足立区にあるNG本社に向けて突き進んでいく……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る