第54話 天才と武闘大会 初日・二試合目2
まず狙うは魔術師からだ。
光に遮られ、目は使い物にならない。なので、対戦相手の魔力を感じ取り、狙いを定める。
魔術師の魔力は――おそらくあれだろう。
軽く地面を蹴る。それだけで、魔術師との距離を完全に詰められた。
――花が舞い、素早い動きで、確実に一撃を決める。
「
私の周りを花々が舞い踊る。
「
杖の先端を魔術師の腹部に当てた。
そこを起点に、小さい、しかし威力の強い風の渦が放出される。
風は花々を巻き込み、ものすごい勢いで魔術師を壁まで運んだ。
魔術師は壁に叩きつけられ、動かなくなる。
その頃には視界も通常の明るさまで戻った。
魔術師の倒れ伏している姿を見た観客たちは、大いに歓声を上げる。
――次はちょっと離れている、あいつでいいか。
魔術師はもういない。なので好きに暴れまわろう。
少々離れた位置にいる剣士の男は、距離があることをいいことに、私を監視しているようだった。――その油断が命取りである。
地面を一、二歩と蹴る。それだけで、あっという間に目の前には剣士が。
「油断大敵。――エンチャウント:硬化」
杖に青白い光が吸い込まれる。
走ってきた勢いそのままに、杖でぶん殴る。私の動きに合わせるように、花々がダンスした。
飛んで行った彼の体は、壁に衝突することで動きを止めた。
一拍を置いて、さらに観客が沸く。
加えてもう一人、硬くなった杖を当て、地面とキスさせた。
――地上にいるのはあと一人。
その最後の一人が、己に対して物理防御の魔術を展開させた。
魔術師ではないようだから、おそらく装飾品の効果だろう。
確かに良い判断だ。けれど。
「忘れてないかしら? 私は魔術師よ?」
もったいぶって、杖を振るおうとする。
しかし、詠唱を唱える前に邪魔が入った。
「
足元から風の渦が立ち上る。花々も舞い上がった。
「
息もつけないうちに、新たな魔術が襲い掛かる。
剣士ではない。
「ぼくちんが足止めをする! だからっ!!」
頭上から可愛らしい声がした。
鳥の獣人だ。その言葉に促され、剣士が迫った。
――足止め、ね。
この程度の魔術も、風によって舞い上がった砂埃も、私には意味がない。
「わが剣術、受けてみよ! 《竜殺し》!!」
剣士の、幾分マシである剣技を、杖で受け止めた。
驚愕した表情が目の前に見える。
そう、彼の表情も剣術も、観客の白熱した様子も、砂埃舞う竜巻に捕らわれていながら私には見えていた。
杖は剣とぶつかり合っている。
なので左手を彼に向けた。
「
手から発せられた稲妻は、轟音と共に彼を遠くまで運ぶ。
さて、残ったのはあと一人。
「空を飛べるだなんて、ずるいわ」
――私も空を飛びたいのに。
「
空中に花畑が点々と現れた。
それらは、竜巻の中にあっても揺るがない。私はそれを足場に、空を駆ける。
「あなたの性別が気になって仕方がないわ。後でじっくり、聞かせてもらうわよ?」
「えっ!? 嘘っ!!」
空中を逃げ回るその子に、杖を叩き込んだ。
鳥の獣人が地面に叩きつけられるのと同時に、魔術で維持されていた竜巻が消える。それによって上空に散っていた花々が降ってきた。
自分で言うのもなんだが、一連の戦闘はまさしく刹那の出来事であっただろう。どれだけの人が、私の動きを捉えられたのだろうか。
皆が弱すぎて、殺してしまわないかとひやひやする。
会場を見下ろせば、5人の体が地面に横たわっていた。
身じろぎさえしない彼らに不安になる。鑑定結果では死亡という表記になっていないので、大丈夫だと思うが。
自由落下している自分の体を、風の魔法で減速させる。
ふわりと着地できた。
途端に、割れんばかりの歓声が会場を満たす。当然の賛美だ。私は天才なのだから。
調子に乗って手を振ると、これ以上大きくなりはしないと思えた歓声が、より一層大きくなった。
――なにこれ、楽しい。
きっとフィーも喜んでくれただろう。
係員に促されるまま、私は会場を後にした。
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