第86話



(来る……っ! な、なんとかしないと!)



 怯えきった僕は必死で塩をイメージする。



 ヒルカワとクレアさんの攻撃を受けても動ける相手だ、塩カッター程度では効果はないだろう。

 最大威力のティンダーをぶつけるには近すぎる。


 ――となると塩しかない。


 塩のシオを組み換え、武器を作り出してぶつける。


 それも一つや二つではなく、ありったけだ。


 恐怖し、冷静さがない僕はなんとかしようと必死でイメージを構築していく。



「うああああああああああああああああっ! しーおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしんおおおおおおッッッ!!!」



 僕はシオを組み替え塩でシオハルコンの槍を無数に作り出し、出来たものから順に宙に浮かせていく。


 普通の武器を宙に浮かせることはできないが材料が塩なら自由自在に操れる。

 塩を空中に舞わせたのと同様に材料が塩なら何でも問題なくできてしまう。

 やろうと思えば空飛ぶクッキーだって可能だ。


 僕は額に汗をにじませながら邪神が迫る速度と今自分が作り出せる槍の最大数と瞬時に判断し、ドンドン作り出していく。


 が、冷静さが失われていたせいか途中から槍の形を成さず杭のような不出来な物を作り出してしまう。


 しかし、そこで止まるわけにはいかない。


 どんなに見てくれが悪くても大量に作り出す。


 ひたすら大量に。


 そして大量のシオハルコンランスを宙に浮かべ、それら全てに魔力を通す。


 すると槍の先端から魔力刃が発生する。


 黄金の光を放つ魔力刃は十メートルに迫る勢いだった。



(躊躇ってる暇はない!)


 シオハルコンランスに充分魔力を通し、構えをとる。


 そして――


「いっけえええええええええええええええっっ! シオハルコンランスレインッッ!!」


 ――僕はシオハルコンの槍を巨大な邪神に向けて一斉に射出した。




 黄金の光を放つ魔力の刃を纏った槍の雨は凄まじい速度で邪神へと殺到し、突き抜けていく。


 ――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!



 大量の槍が貫通し絶叫する邪神。


 邪神が槍を受けた部分は傷が塞がる事もなく穴が空いたままになっていた。


 だが邪神はそれでも諦めずにこちらへ走ってくる。


 走ってきてしまう。



(なんであれで生きているんだ!?)



 その姿を見ただけで心の内側から止め処なく恐怖の感情が溢れ出す。


 槍の大量射出は今咄嗟に繰り出せる最大威力の攻撃のつもりだった。


 だがそれでも邪神は生きていた……。



 もう一度同じ事をしてもあれは止まらないのではないのだろうか。


 このままでは皆あれに殺されてしまう。


 そんな考えが邪神を見て感じた恐怖を増幅させてしまう。



「う、うわわああああああああああああああっ!」


 強烈な精神的圧迫を受けた僕は気が動転してしまい、ただの塩を放ってしまう。


 さじ加減を失った塩は津波のようになり、邪神へと降りかかった。


 塩の波が邪神を飲み込む。



 ――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!


 そして塩に飲み込まれた邪神はなぜか苦悶の声を上げつつ全身から白い煙を吐いて塵化していく。


 邪神の表皮がドライアイスに水をかけたようにボコボコと泡立ち、白煙が立ち込める。



「え?」


 僕はあまりに意外な結果に放心してしまう。


「なんだ! どうなってるんだ!?」

 今まで余裕の笑みを見せていたガスマスクの男の声が響く。


 男の狼狽する声が響く中、邪神はみるみるうちに煙となって消えてしまった。



(塩…………だからか?)


 塩には穢れを清める効果もある。

 邪悪の権化、穢れそのものの邪神には効果てき面だったのだろうか。



「お、俺の邪神が……」

 崩れ落ちるガスマスクの男。


「なんて危ないものを出すんだ……。偶然うまくいったからよかったものの……」


 僕は額の汗を手の甲で拭いながら呟く。

 よくもまああんなものを操れたものだと不謹慎な話だが関心してしまう。


(とにかく早くこの場を片付けてヒルカワとクレアさんの安否を確認しないと)

 僕は剣を構え、ガスマスクの男と向き合う。


 だが、僕が斬り掛かるより男の行動の方が早かった。

 男は両手でこちらを遮るような仕草をしながら焦ったような表情でまくし立てる。


「お、俺が悪かった! この通りだ! もう世界を支配しようと企んだりしない! この通りだ、許してくれ!」


 男は邪神が倒されたことで心が折れたのか土下座して謝ってきた。


「……分かった。とりあえずヒルカワとクレアさんを助け出すから手伝ってくれ」


 釈然としない部分もあったが男の謝罪を受け入れることにする。

 もはや脅威となるモンスターはいない。

 後はギルドに任せればいいだろう。


 そう気持ちを切り替えた僕は先に傷を負ったヒルカワの方へ向かおうと踵を返した。


 男も同意し、土下座から立ち上がる。


「ああ、わかっ……、隙ありぃいいいいいいいいいいッッッ!」


 が、男は背後を見せた僕に斬りかかってきた。


「うっ」


 背中を斬られ、膝を突く。


 振り返ると剣を振りかぶった男の姿があった。



「バアアアアアカ! 改心とかするわけないだろうが! これでお前も終わりだああ!」


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