第64話

 断末魔の悲鳴を上げ、爆発四散するイフリーゴン。



 僕はイフリーゴンが倒れたのを確認した途端、全身の力が抜けてしまい、膝を突いてしまう。

 どうやら魔力を消耗し過ぎたようだ。


「ソ、ソルトォオオオッ!」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしたエイリーンが走り寄って抱きついてくる。

 僕はそんなエイリーンをしっかりと抱きとめた。


「もう大丈夫だから……。さあ、みんなと合流しよう」

 僕はエイリーンの髪を撫でながら笑って見せ、安心させようとする。


「う、うん。歩ける?」

 涙を拭きながらエイリーンが僕の身体を支えてくれる。


 そして僕がエイリーンの肩を借りて立ち上がったところで扉が開き、コロが飛び込んできた。どうやらイフリーゴンが死んだ影響で扉も元に戻ったようだ。


「ご主人様―――ッッッ!」

 絶叫とともに飛びつき、力強い抱擁をしてくるコロ。

 顔を見ればエイリーンに負けず劣らず涙でぐしょぐしょになっていた。


「わぷっ。心配かけてごめんね」

 僕はコロの背を撫でながら微笑みかけた。


「無事だったのですね! 良かった……」

 女の子を背負い、こちらへ駆け寄って来るリリアンナ。

 そんなリリアンナの目には薄っすらと涙が滲んで見えた。



「とにかく戻ろう。ソルトが心配だよ」

 少し落ち着きを取り戻したエイリーンが僕の腕を肩に回してしっかりと支えてくれる。


「そうだね。女の子も送り届けないとね」


 なんとか魔神は倒せたが女の子は意識を失ったままだ。

 これは早いところ治療院で診てもらったほうがいいだろう。

 幸い地図もあるし脱出にはさして時間はかからないはず。



「わかりましたわん」

「この子は私が背負って行きます。コロは周囲の警戒をお願いします」


 それぞれの役割が決まり、僕達は地上を目指すのだった。


 …………



 その後僕達は最短ルートを辿ってなんとかダンジョンを脱出する。


 最短ルートを進んだせいか予想外の早さで外に出ることに成功した。

 こういう時地図があるというのは本当に助かる。

 道中ほとんどモンスターに遭遇しなかったのも幸運だった。


 久しぶりに浴びた日の光が気持いい。



「なんとか出れましたね。ソルト大丈夫ですか?」

「ご主人様、疲れてませんか?」


 リリアンナとコロが僕を気遣って声をかけてくれる。

 二人とも不安げな表情でこちらを見つめてくる。


 僕は大丈夫だと笑顔を作りながら口を開く。

 実際、今感じている疲労感は魔力の消耗によるものだろう。

 体に異常があるわけではないのだ。



「大丈夫。それより女の子を治療院へ」

 二人に頷き返しつつもリリアンナが背負っている女の子の方へ視線を送った。


「多分気絶してるだけだと思うけど連れて行った方がいいね」

 僕に肩を貸してくれているエイリーンも頷く。


 地上に到着しても女の子の意識は失われたままだった。

 大事になってなければいいんだけど。



「ではこのまま私が連れて行きましょう。皆は先にギルドへ行っていて下さい」

「回復魔法が必要になるかもしれませんし、一応コロも着いて行きますわん」


 と、リリアンナとコロが治療院へと向かってくれる事になる。


「わかった、二人ともお願いするね」


 僕も着いていきたいところだけどギルドへの報告も早めに済ませたい。

 ここは二手に分かれるべきだろう。


「任せて下さい」

「行ってきますわん」

 リリアンナとコロはそう言って治療院へと向かってくれた。


「じゃあエイリーン、僕たちはギルドへ行こうか」

 僕はエイリーンに向き直って微笑みかけた。


「あ……、え……、はい」

 するとエイリーンは茹でダコのように顔を真っ赤にして俯いてしまうのだった。


「どうしたの?」

「な、なんでもないです……」

 なんでもないと言うけど普段と口調も違う。


「でもいつもと感じが違うような」

 顔色も悪いし大丈夫だろうかと顔を近づけて様子を見る。


「なっ、なんでもないよ。あの……」

「うん」

 物凄く慌てた素振りを見せるエイリーン。

 いつもはおっとりというかゆったりしている印象があるのでなんだか新鮮だ。



「さ、さっきは守ってくれてありがと……う」


 僕の方をチラチラと見ながらたどたどしくお礼を言うエイリーン。


 エイリーンはどうにもこっちをじっと見ていられないようですぐに反対方向へ視線を向けるもまたすぐこちらへ視線を戻すというのを繰り返しながらなんとか喋り終えた。



「なんていうか……、あの時はああ言ったけど本当はどうなるかわからなかったよ。でも、助かって良かった」


 咄嗟に言ったことだったし助かる保証なんてなかった。

 でもなんとかエイリーンを励まして落ち着かせたかったというのが本音だ。



「うん、あの時の言葉、すごく嬉しかった。もうダメだと思ったけどソルトのお陰だね」


「そうかなぁ」

「そうだよ、絶対に!」


 今までチラチラとしか視線をあわせてこなかったエイリーンがこの時だけじっと僕を見つめてくる。でもその顔はずっと真っ赤なままだった。


「まあ、行こっか」

「はい」

 普段と違うエイリーンに違和感を覚えながら僕達はギルドへと向かうのだった。


 …………


 僕の足取りがおぼつかないせいか少し時間がかかるも無事ギルドへと到着し、受付へと向かう。





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