第60話

「確かに。あれは……人?」

「ん〜? まだ一般解放されてないから今このダンジョンにいるのは私たちだけのはず〜」

 リリアンナの言葉に異を唱えるエイリーン。


 確かに今このダンジョンに入っているは僕達だけのはず。



「モンスターかな? って、コロ!?」


 人型のモンスターだろうか。

 僕が呟いた瞬間、コロが通路の奥まで一気にダッシュして行ってしまう。


 慌てた僕達はコロの後を追いかけた。

 すると通路の奥で女の子を取り押さえているコロを発見する。



「ひっ捕らえましたっ!」


 満面の笑みで報告するコロ。


 そんなコロに拘束されていたのはどう見ても女の子だった。

 女の子は僕より少し年下、三〜四個くらい下ではと思えるどこか幼さが残る感じがした。濡れ鴉のように艶やかな黒髪が印象的な子だ。


「は、早いですね……」

 コロの早業に驚くリリアンナ。


「女の子〜?」

 こんなダンジョンの中に女の子が一人だけで居た状況に驚くエイリーン。


「な、なんだー!? は、放せーーッッ!」

 女の子はわけもわからぬままコロに拘束されたせいか大声を上げながら暴れていた。



「君は? ここは関係者以外立入禁止だよ?」


 そんな女の子に近づきながら質問する。

 もしかして僕達以外にも許可を得て潜っている冒険者がいたのだろうか。



「え? でもここは古くから冒険者に開放されているダンジョンでしょ?」


 きょとんとした表情で答える女の子。

 どうもここが立入禁止のダンジョンとわかっていない様子。


「それは隣のダンジョンですわん」

 明確な回答を述べるコロ。


 そういえば元からあるダンジョンとこの新しいダンジョンは接触してしまうほど近くにあったのだった。どうやら女の子はこのダンジョンに間違えて入ってしまったらしい。



「ええっ!?」


 コロの言葉を聞いて驚愕の表情を示す女の子。


「気が付かずに入ってしまったようですね」


 予想的中といった感じで呟くリリアンナと僕はうなずき合う。

 やはり古いダンジョンと間違えて入ったと見て間違いないようだ。


「それにしたって一人でダンジョンに入るのは危ないよ〜」


 エイリーンは女の子が一人でダンジョンに入っていた事が気になったようだった。元からあったダンジョンへ挑むにしてもやはり一人で入るものではない。

 それも女の子一人となると尚更だ。



「一人でダンジョンに入っていたの?」

 パーティからはぐれた可能性も考えられたので聞いてみる。


「当然ですっ! 修行のためですからね!」

 が、女の子の答えを聞く限り単独でここまで潜ったようだった。

 その理由は修行のためだと言う。


「修行! かっこいいですわん」

 女の子が一人でここまで来た理由を聞き興奮するコロ。



「ふむ、強さが伴うなら問題ないですが……」

「そんなに強そうには見えないね〜」


 が、リリアンナとエイリーンは女の子の外見があまりに普通、むしろ弱そうに見えたため眉間に皺を寄せる。実力の伴わない無謀な挑戦をしていると感じてしまったのだろう。



「そ、そんな事はないっ! 私は大お爺様のようになろうと日々鍛錬を続けてきたのだ! だから強いのだ! ま、まぁ……モンスターと戦うのは初めてだったけどね……」


 最初の方は凄く自信満々だったが段々トーンダウンし、モンスターと戦ったのはここがはじめてだと吐露するころには消え入るような声音になる女の子。



「う〜ん、いきなりダンジョンは止めておいた方がいいような……」


 女の子の話が本当なら多分強いのだろう。


 六層まで一人で足を踏み入れているということはここまで来る間に遭遇するモンスターを単独で倒したことになる。全てのモンスターから逃げてここまでたどり着くのはさすがに不可能だ。


「大お爺様は十代で偉業を成し遂げたのです。その子孫たる私がダンジョンの一つや二つで遅れを取ることなどありえないんだからね!」


 どうやら女の子は祖父への憧れから修行も兼ねての無茶なダンジョン攻略に挑んでいたようだった。



「そ、そっか、おじいさんは相当すごい人なんだね」


 十代で偉業を成し遂げたとか言ってるけど一体何をした人なんだろうとちょっと気になってしまう。だけどその話を聞くと長そうな気がしたので黙っておくことにする。



「すごいなんてものではありません! 英雄なのです!」


 おじいさんが大好きなのか段々ヒートアップしてくる女の子。

 やはり深く聞くと大変な事になりそうな気がする。


「まあ、ここは関係者以外立入禁止なのは変わらないし、ダンジョンに挑戦するなら改めて隣のダンジョンへ行くべきだよ」


 僕はそんな女の子を諫めるようにして話した。


 いくら修行とはいえ、立入禁止場所でやるべきではない。

 隣に同じことができる入場可能な場所があるなら尚更だ。



「怒られちゃいますわん」

「そうですね。腕に自信があるのはわかりましたが規則は守っておいた方が良いですよ」

「無茶すると冒険者の資格を剥奪されちゃうよ〜?」


 みんなも女の子を心配しながら声をかける。


「ぐぬぬっ、それもそうですね。ところでなぜここは立入禁止なのですか?」

 僕達の言葉を聞いてまずいと判断したのか悩ましい顔をする女の子。


「ここは最近新しく出来たダンジョンで未知の部分が多いからだよ。今は依頼を受けた冒険者が異常がないか点検してるところなんだ」


 そんな女の子にここがどう危険な場所なのかを説明しておく。

 未探索の部分が残っていて不慮の事故が起きる可能性があるんだよね。


「未知のダンジョン!?」

 だが、女の子は僕の話した一部分に強く反応し、目を見開いた。


「あ、うん。だから危ないんで立入禁止なんだよ」

 再度危険だという事を告げる。

 が、僕の話を聞けば聞くほど女の子の目はキラキラと輝きを増していく。



「それは英雄の血が騒ぎますね! そんなダンジョンを踏破したとなれば私の名もうなぎ上り間違いなし! これは是が非でも行かねばああああっっっ!」


 女の子は僕達に話しながら全力疾走をはじめ、そのままダンジョンの奥へと行ってしまう。



「あ、ちょっと!」


 僕は走り去る女の子を手で制そうとするも時すでに遅し――行ってしまった……。






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