第54話

 

(ダンジョンかぁ……)

 どうやら今度はダンジョンへ行くことになりそうだ。


 町に着いたころは不慣れな事も多く色々と苦戦したが少しは冒険者らしくなってきたのではないだろうか。ギルドマスター直々の依頼だし良い結果が出せるよう頑張っていきたい。


「でもまずはお店の片付けだよね」

 ダンジョンも大事だけどまずは目の前のことからやっていかないとね。


 というわけで、店の片づけを手伝った僕達はそのまま二階へ上がって就寝するのだった。


 …………


 翌日、僕は商業区を歩きながら昨日のことを思い出す。


 前日の夜には食料も無事届き、今日からは食堂も通常の営業に戻った。


 これで僕もお役御免だ。

 けど塩を求めてやってくるお客さんが後を絶たないらしい。


 そんなわけでクッコさんがちょっと拗ねてた。

 やれやれ困ったものだ。


 でもそんなことに構っている暇はない。

 なんといっても今日からはダンジョン探索に向けて準備していかないとならないからだ。


 というわけでみんなと一緒に絶賛買い物中なのである。


 食料やテントなどはエイリーンのアドバイスを受けながら買い揃えていく。

 今回はギルドからの依頼で自発的な探索ではないため、探索でかかる経費はある程度請求できるらしい。非常に助かる話だ。


 そんなわけで買い集める資材もワンランク高いものになっていたりする。

 これくらいの贅沢は許されるよね?



「エイリーン、後買い逃していそうなものってあるかな?」


 僕は店の中を散策しながらエイリーンに尋ねた。



「んん〜、大丈夫だと思うよ〜。みんなは何か気づいたことある?」


「わっふ〜ん」

 腕組みして考え込むコロ。


「し、塩です。塩が圧倒的に足りないと思います!」

 挙手して塩の必要性を説くリリアンナ。



「大丈夫そうだね。じゃあギルドに行って詳細を聞いてみようか。行けそうなら今日から出発しちゃう?」


 皆に確認を取ってみたが一応準備は整ったとみて問題なさそうだ。

 受付で依頼の説明を受けてから何か思いつけばその時にまた買い足せばいいだろう。



「そうだね〜。これだけ早く準備が済んだのは私のお陰なんだし感謝してよ〜?」

 腰に手を当て、えっへんと胸を張るエイリーン。


「うん、ありがとう。じゃあギルドへ行ってみよう!」

 僕はエイリーンにお礼を言うと店を出た。


「おー!」

「し、塩を……」

 コロとリリアナも後に続く。


 と、いうわけで僕たちはギルドへと向かった。


 その途中、屋台が並ぶ一帯を通るとふいに声をかけられる。

 誰だろうと思って振り向くと、そこには昨日お店で塩を食べていたおじいさんがいた。


「やあ! 君達は昨日の塩屋の人達じゃないかい?」


「あ……、え〜っとギンギンさんでしたっけ?」

 確かそんな名前だったはず。



「名前を覚えていてくれたとは光栄じゃな。そうケチな遊び人のギンギンとはあっしのことだ」

 ビシッとポーズを決めるギンギンおじいさん。


「は、はぁ……。えっと、僕はソルトって言います」

 僕はギンギンおじいさんの独特な乗りについていけず曖昧な相づちを打ってしまう。



「で、どうしたんだい、今日はみんなで買い物かな?」


「ええ、ダンジョンに潜る事になったので買い出しです」


 屋台で一杯ひっかけているらしいギンギンおじいさんに今日買い物に来た理由を説明する。するとギンギンおじいさんは顎をさすりながら物思いにふけるような表情で穏やかに呟いた。



「そうかそうか〜。わしも昔は潜ったもんだね〜、ダンジョン」


「おお、そうなんですか!」

 なんとも経験豊富そうなオーラが出ていたせいもあり、びっくりしてしまう。

 昔は名うての冒険者だったのだろうか。



「ああ、珍しいモンスターやお宝に胸躍ったもんさ」


 目を閉じ、懐かしそうな表情をするギンギンおじいさん。

 きっと若かりし頃を思い出しているのだろう。


「はじめて潜るんですけど何か気をつけておくことはありますか?」

 ギンギンおじいさんの仕草になんともいえないベテラン臭が漂うのでアドバイスを求めてみる。


「食料と薬だな、それだけは必要以上に持ち込んでおくべきだ。それに武器の予備もあったほうがいい。一度潜ると引き返すのにも時間がかかるのがダンジョンってものなのだよ」


 昔の事を思い出したのかちょっと真剣な顔になったギンギンおじいさんがポイントを教えてくれる。話を聞く限りダンジョン内で補充ができないのが一番の問題なのだろう。



「なるほど、参考になります」


 忘れがちだがダンジョンは往路、二倍の準備が必要なのだ。



「まあ、わしが潜ったのはずっと昔の話だし今はやり方も違うかもしれんがね」

 そんな台詞とともにちょっと寂しそうな表情になるギンギンおじいさん。


「そんな事ないですよ」


「やっぱり老いには勝てないねぇ……。君にはわからんだろ? 膝の関節の痛みとか」


「あ、はい」

 こういう時、分かりますよと答えたいところだけどさすがに膝の痛みはまだわからない。僕もまだまだ若いってことなんだろう。


「おっと、湿っぽくなっちまった。まあ縁があったらまた会おう! ダンジョン、頑張りなさい」

 そう言うとギンギンおじいさんは屋台の勘定を済ませ、僕達に手を振ってその場を去っていった。



「ありがとうございました。じゃあ!」

 僕もおじぎして手を振り返す。


 しばらくするとギンギンおじいさんは町の喧騒に溶け込み、見えなくなってしまった。


 僕はその場で腕組みしながらさっきの話を思い出す。



「んん〜、ギンギンさんの話を聞いた後だとちょっと食料が心もとない気がしてきたなぁ」


 話を聞いた後だと今の準備では心もとない気もする。


「四人だしもう少し持っていった方がいいかもね〜」

 エイリーンももう少し買い足した方がいいかもと提案してくる。


「いや、し、塩があるから大丈夫ですよ? 塩さえあれば問題はないはずです!」

 と、そこでリリアンナが否を唱えた。

 塩があれば食料は問題ないと言うのだ。



「う〜ん、最悪それでいけるかぁ。じゃあ薬をもう少し買っておこうか」


 リリアンナの言葉を聞くと確かにそれもその通りだと思う。


 僕には無尽蔵に出せる塩があるし、食料は最悪これでしのげる。

 となると、残すは薬だろうか……。


「わかりましたわん!」

 強く頷くコロ。


「私は眠いから先にギルドへ行って待ってるよ〜」

 買い物に疲れたのかエイリーンは一足先にギルドへと向かうと言う。


「そんな事より塩です! 塩が必要なはずなのです!」

 リリアンナは平常運転だった。

 これは一緒に同行すればずっと塩って言い続けそうな気がするな……。



「じゃあ、僕とコロで薬を買ってくるよ。エイリーンとリリアンナは先にギルドへ行って待っててくれるかな」


 僕は少し考え、エイリーンとリリアンナには先にギルドへ向かってもらうことにした。買う物も決まっているわけだしわざわざ四人で行く必要もないだろう。


「わかった〜」

「私の塩の話は!?」

 快諾したエイリーンがリリアンナの首根っこを引っつかみギルドへと向かってくれる。


「じゃあ、後でね」

 僕はそんな二人を手を振って見送った。



「薬屋はあっちだったっけ?」

「はいっ」


 と、いうわけで僕とコロは薬屋へ買出しに向かうのだった。

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