第39話

 まだリリアンナにも呼び捨てで呼ぶのに抵抗があるのにエイリーンさんもこれで呼び捨て決定だ。


 歳が近いとはいえ、リリアンナは先輩、エイリーンは先生というイメージがあったので言葉遣いも気にしていたのだがもっと柔らかくしてくれと逆に言われてしまった。

 ちょっとハードルが高いけど頑張って直していこうと思う。



「……うん、まだ慣れないけどパーティだし、その方がいいよね」


「そうそう〜、親密さが大事なのだよ。わかるかな〜?」


 僕の言葉にエイリーンはうんうんと頷きながら、ひしっと抱きついてきた。



 ローブ姿なので気づかなかったがエイリーンは胸が大きいらしく、やわらか温かい感触が僕の側面を襲う。


「ちょっ、エイリーン!」

 突然の出来事に慌てふためく僕。


「むむっ、コロも! えいやっ」

 が、その様子を見たコロが颯爽と参戦してきた。


 尻尾をぱたぱたと振りつつ突進してきたコロはエイリーンが抱きついている逆側面からガシッと僕をホールドする。


 コロとは毎夜一緒に寝ているのでよく知っているのだが胸が大きい。かなり大きいのだ。


「わ、私だけしないのはパーティとしてチームワークに欠けますね! や、止むを得ないですねっ。決して本心ではないのですが……、え、えいっ」


 そんな二人の状況を見て、リリアンナは僕の背後から首に腕を回して抱きついてきた。背中はほわんと温かくなる。リリアンナはなんというか……、薄着すぎるので色々と感触がまずい。まずいんだ。



「あ、歩けない……」


 歩けないうえに、妙に全方位にやわらか温かい。

 未知の体験にどうしたらいいかわからない僕。


 などと三人で和やかな会話をしながら進んでいる内に山の側まで到着してしまう。


「ここがそうなの?」

 僕はオークが出没するという山を見上げながらリリアンナに尋ねる。


「ええ、ここからは慎重に行動しなければならないです。以前の私のように囲まれてしまってはまずいですからね」


「気をつけますっ。音を立てないようにすればいいですか?」

 リリアンナの言葉に素直に頷いたコロが疑問を口にする。


「あんまり気にしすぎてもしょうがないけど、私語は厳禁かな。あと簡単なハンドサインを決めておこうかな」

 と僕が提案する。


 というわけで山に入る前に合図を決めることとなった。

 といっても本当に簡単なものだけだ。

 あんまり複雑にしてもわからなくなっちゃうしね。


 事前に行動の打ち合わせを終えた僕たちはオークが出没するという山に足を踏み入れた。


 …………


 それから山に入って一時間ほど経過したがオークとは遭遇できずにいた。


「いないね……」

 ちょっと気が緩んだ僕はみんなに話しかけてしまう。



「むぅ、ここで頻繁に目撃例があったのは確かなのですが……」

 ここまで遭遇しないとは予想していなかったリリアンナも首を捻る。


「他の人が依頼で狩り尽くしちゃったわん?」

「それはないかな〜。そんな大量に討伐されれば噂になるからね〜」


 コロの疑問をエイリーンが否定する。

 単純に運が悪いだけなのだろうか。


「リリアンナ、これからどうする?」


 このまま闇雲に進んでもしかたないので一旦この辺りで引き際を決めた方がいいだろうと考えた僕はリリアンナへ視線を送る。


「……むぅ、一旦ここで休憩し、時間を決めて索敵しましょう。日が暮れる前に下山した方がいいですしね」


 リリアンナはそう言いながら周囲を警戒できる場所を見つけてくれる。

 皆でそこへ移動し腰を落ち着けた。

 全員一度に休憩するのもどうかと思うが山に入ってから結局一度もモンスターと会っていないし、結構大丈夫そうではある。


「了解ですわん。じゃあ、ご飯ですね」

 リリアンナさんの言葉と同時に素早く敷物を展開するコロ。

 お腹が減ってたのかな。


「あ〜、ご飯持ってくるの忘れた〜」

 みんながご飯の準備をはじめる中、やっちまったーといわんばかりに顔に手を当てて悔しがるエイリーン。


「食べます?」

 そんなエイリーンを見かねた僕は握り飯サイズの塩をさり気なく出してみせる。


「ッ!? ま、待ってください! わ、私にも!」

 が、一番に反応したのはリリアンナだった。

 塩を見た途端、問答無用で僕の腕にしがみついてきたのだった。


「コロも欲しいですわん」

 コロもそんな事を言いながら隙ありといわんばかりに僕の空いている腕にしがみついてくる。

 やれやれ、参ったな。


「なに〜? 真っ白だね?」

 当のエイリーンは僕が出した塩をマイペースに眺めていた。


 これは休憩中もひと悶着ありそうだ。


 …………


「じゃあ、行きますか。このまま奥へ進むの?」

 塩休憩を終えた僕は立ち上がるとリリアンナに確認を取る。


「ん〜、そうなりますね……。ここで待つのも手ですが……」

 ちょっと思案顔のリリアンナ。


「行かないのですか?」

「リリアンナが迷っているのはね〜、この奥は冒険者でもあまり立ち入らないからなんだよ。あんまり進むと日帰りで行けなくなっちゃうからね」

 エイリーンがコロの疑問に答えてくれる。


 確かに奥まで進んで時間が経過した状態で帰りにモンスターと遭遇すると危険だと思う。


「どうする? 何か意見を言えたらいいんだけどこの山に入ってから一度も戦闘をしていないから僕には判断がつかないよ」

 何も知らない僕が意見を言っても混乱を招くだけだし、ここは経験のあるリリアンナとエイリーンの考えを聞くべきだろう。


「まだ時間もありますし、今日は四人です。もう少し行ってみましょう」

「わかりましたっ」

 リリアンナの提案にコロが強く頷く。

 と、いうわけでもう少し進んでみることになる。


「こんなにモンスターと遭遇しないのも珍しいよね〜」

 モンスターと遭遇しない事にエイリーンも不思議そうな顔をしていた。



「了解です。じゃあ慎重に進もう」

 このまま探索を続行する事が決まり、更に山の奥へと進む。


「ええ、撤退の判断は私がさせてもらいますよ」

「頑張りますわん」

「気をつけよ〜」


 僕たちはオークを求めて更に山の奥へと進むのだった。


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