第34話

 僕はため息をつきながらコロのいるベッドへと戻った。


 …………


「ご主人様っ! 曲者ですわん!」



 翌朝、コロの警告で目が覚める。


「んん〜、どうしたのコロ?」

 目をこすりながら部屋の掃除をしていたコロの方を見る。


「怪しい奴がベッドで寝てますっ! 非常に布面積が少ない服装ですっっ!!」


 コロは誰もいないはずのベッドに人が眠っていたため、驚いてしまったようだ。

 掃除に使っていた布きんを構え、警戒態勢をとっている。


「もう、よく見て、リリアンナさんだよ? 会った事あるよね?」


 昨日コロがぐっすり眠っていたので説明しなかったのはまずかったなと思いつつ、リリアンナさんのことを説明する。

 僕の言葉を聞いて恐る恐るといった体で再度ベッドで眠るリリアンナさんを凝視するコロ。



「わふ? 本当です! うっかりしてましたわん」


 リリアンナさんだと気づいたコロは自分の頭をこつんと軽く叩きながらやっちゃったという顔をした。



「うん、今日からしばらく一緒に依頼をすることになったから仲良くしてあげてね」

「わかりましたっ」

 コロは僕の説明に元気の良い返事をかえしてくれる。


 そんな会話をしていると件のベッドの中身がもぞもぞと動き出す。

 ちょっとうるさくしすぎたかな?


「ん、おはようございます、みんな」

 寝癖でぼさぼさになった髪を撫で付けながらリリアンナさんがベッドから起き上がる。


 すると毛布がずり落ち、布面積が少ない衣服があらわになった。

 が、寝ぼけているリリアンナさんはそんなことに頓着する様子もない。


「おはようございます、リリアンナさん」

 僕は目のやり場に困りながらも挨拶する。


「おはようですわん!」

 それにコロも続く。


「ああ、コロでしたか? ソルトには昨日話しましたがしばらく一緒に依頼をこなすことになりました。今日からよろしくお願いします。それとソルト、私たちは仲間なのですからさん付けで呼ぶのは止めてください」

 リリアンナさんはまだ冴えない頭で自己紹介をなんとかやり遂げた。



 そしてさん付けで呼ぶのを止めてほしいと言われてしまう。


 でも女の子を呼び捨てで呼ぶのってちょっとハードルが高い。

 と、思いつつもコロの事は意識せずに呼べてるんだけどね。


 この差は二人の持つ印象によるものだろう。


 コロはどことなく放って置けない感じがするのと同時に気軽さというか気安さを感じる。そのため、身構えることなく家族に接しているような気分で話すことができてしまう。


 逆にリリアンナさんは綺麗な顔立ちと凛とした雰囲気が近寄りがたいオーラとなって僕を身構えさせてしまう。第一線で活躍するモデルや女優の人に名前で呼んでね、と言われるようなものだ。



「えっと……、じゃあよろしく、リリアンナ?」


 ちょっと抵抗があるので疑問系だ。

 まだ全然慣れないけどとりあえずは心の中でも意識して使って徐々に慣れていくしかないだろう。


「ええ、こちらこそよろしくお願いします、ソルト。そしてコロもよろしくお願いします」

 僕達に笑顔を向け、凛々しい視線を送るマイクロビキニのリリアンナ。


「はいっ! 一緒にご主人様にお仕えしましょう!」

「いや……、そういうわけではないのですが……」


 リリアンナはコロの勘違いにまだ頭がはっきりしていないせいか、うまく説明できずに言葉を詰まらせていた。僕はそんな二人のやり取りを見ながらこれならうまくやっていけそうかなとほっと息を吐く。


「とりあえず朝食にしましょうか。下に食堂があるのでそこで食べましょう」


 僕はかみあわない会話を続ける二人に朝食をとることを提案した。

 ご飯でも食べながら話したほうがリリアンナも目が覚めるだろう。


「はいっ!」

 ご飯と聞いて耳をぴんと立てたコロは笑顔で元気に返事をしてくれる。


「いや……、私は……」

 それとは対照的に暗い表情で言葉を詰まらせるリリアンナ。

 そんな暗い表情もリリアンナの綺麗な顔立ちを際立たせてしまう。


「どうしたんですか?」

「わふ?」

 僕とコロは疑問顔でリリアンナを見つめてしまう。


「その……、先立つものがなくて……」


 伏目がちにポツポツとお金がない事を恥ずかしそうに話すリリアンナ。


 そういえば装備を売ったりして懐が寂しいって言ってたっけ。

 この様子だと食事代わりに塩を食べていたから消費が激しかったのかもしれない。

 塩って美味しいしね。


「ああ、わかりました。僕がご馳走しますよ」


 僕は悪い事をしてしまったなと思いながらご飯に誘う。

 朝食くらいお安い御用だ。


 僕は扉を開けて下に降りるよう二人を促した。


 …………


「じゃあ食べますか」

 宿の一階にある食堂へと到着し、適当なテーブルへ向かおうとみんなを誘う。


「はいっ!」

「ん……、その……なんだ……」


 僕の言葉に元気な笑顔を返してくれるコロとは真逆のはっきりしない口調のリリアンナ。


 妙にモジモジして落ち着きがない感じだ……。

 まだ僕が朝食代を出すことに気を使っているのだろうか。


「リリアンナ、遠慮しないで下さい。今日依頼をこなせば報酬も入りますしこの朝食だけですって」

「いや……、そうでは……なくてですね……」

 僕が説明するもリリアンナは顔を赤くして俯くばかりだった。


「どうしたんですか?」

「わふ?」


「その……ですね……。マントが……破けて……」


 僕とコロが首を傾げるとリリアンナは顔を真っ赤にしながらモジモジしている事情を吐露しはじめた。


「ああっ! マントがないから裸同然ですわん!」

 そこで正解に気づくコロ。


「い、言わないでっ!」

 顔どころかマイクロビキニ以外を真っ赤にさせながら叫ぶリリアンナ。


「えっと動き易いからって……」

 でも昨夜は動き易いからその服を選んだとも言っていたのを思い出す。

 お金がないから服を売ったとはいえ、その恰好は自分の意思で選んだのではないのだろうか。



「う、動き易いとも! 動き易いともさ!」

 茹でダコのようになったリリアンナは吹っ切れたように声を張る。


「恥ずかしいわん?」

「くっ!」

 コロの指摘に顔を歪ませるリリアンナ。

 どうやら図星のようだ。


(……僕とした事が)

 そんな恥ずかしがるリリアンナを見ていられなくなった僕はすっと立ち上がる。

 そしてリリアンナを抱き上げた。


「ッ! な、何を!」


 突然の事にパニック状態になり、わたわたする茹でダコのリリアンナ。



「服を買いに行きましょう!」


 やっぱりマイクロビキニは何かとまずい。


 ここは僕が服を一着買って贈るべきだろう。





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