第33話

 どうやら以前装備していたドレスアーマーは売却してしまったらしい。

 装備にまで手を出してしまうという事は相当お金に困っているのだろうか。



「ど、どうしても必要だったんです……」


「……もしかして僕から塩を買っていてお金がなくなったんですか?」



 思い当たることといえば“塩”だ。


 塩なのだろうか?

 塩のせいなのだろうか?



「……その、私は……とても……」


「とても?」

 俯いたまま体を震わせながら言葉を紡ぐリリアンナさんに先を促す。

 悲壮感を漂わせたリリアンナさんは悲劇のヒロインを演じる女優の様で微妙にかっこいいから困る。


「とても上がり症なのですっ!」

「え?」


「だ、だからアレがあるととても助かっていたのです! 緊張するような場面ではアレが手放せなくて……」

「そうでしたか。でも、充分な量があったと思うんですけど」


 どうやらリリアンナさんは緊張する場面で塩を多用していたようだ。


 確かに塩にはリラックス効果や集中力を高める効果など一見すると相反するような効果が絶妙なバランスで作用し、一舐めすればたちまちベストな状態になれる。



 だが、その程度の使用では使い切れない量だったと思うんだけど……。


 途中からまとめて渡していたし、すごい量だよ?

 一体何ペロくらいしたのだろうか。


「た、足りないっ! 足りないんです!」

 目の据わったリリアンナさんは僕の両肩を掴んで力説する。


「言ってくれればお金なんて取らなかったのに、なんで……」

 そんなに必要なら言ってくれればいくらでも融通したのにと思ってしまう。


 なんせ魔力が続く限りはいくらでも出せるのだ、大々的にやると騒ぎになるかもしれないけどリリアンナさん一人くらいなら何も問題はない。



「そ、それはっ! わ、私だって冒険者の先輩としてあまり恥ずかしい姿をみせたくなかったんです……。それで……」


 リリアンナさんの話を全面的に信じるならちょっといい格好をしようとしたのが裏目に出たという事のようだった。確かにこんな事になる前は可憐なイメージが定着していたしそれも頷ける。

 今だって話している姿は凛々しくも優艶だ。……塩の話題だけど。


「でもそんなに高いってわけでもなかったと思うだけどなぁ……。まあ、確かに終盤は大量に買ってもらったので金額は上がっていましたけど……」


 塩の値段はそれほど高く設定していたわけではなかった。

 にも拘らず、リリアンナさんの台所事情は困窮を極めていた。


 一体なぜこんな事に……。



「も、元々ギリギリだったんです。この剣はミスリル製でちょっと無理をして分割払いで買ったのです……。だから塩にお金を使うとどうしても……」

 リリアンナさんは剣に触れながら俯きがちに話す。


「そうでしたか……」


 どうやらリリアンナさんは高価な剣を奮発して買ってしまい、その支払いに追われていたらしい。そこに塩の支払いがプラスされて懐が崩壊してしまったようだ。



「わ、笑いたければ笑うがいいです! 恰好をつけて先輩風吹かしていたのに実際は他の新人冒険者と大して変わらない貧乏暮らしの見栄っ張りだったと……」


 リリアンナさんは顔どころか全身を真っ赤にし、涙目になりながら僕を見つめてくる。そんな姿に妙な艶っぽさを感じた僕は咄嗟に目をそらしてしまう。

 というかさっきから目のやり場に困っている。


「笑いませんよ。僕だって多額の請求がきて、てんてこまいなんですから」


 真っ赤になったリリアンナさんを見て、僕が笑えるはずもなかった。

 なぜなら僕だって少し前から訓練所の修復費用の支払いに追われているからだ。



「そ、そうなのですか!?」

「ええ、そうなんですよ。まあ借金するほどでもないですが生活はカツカツですね」


 目を見開くリリアンナさんに僕はうんうんと頷いて返す。


「よし! パーティを組みましょう!」

 そんな僕を見て、妙案が浮かんだといわんばかりに目を見開くリリアンナさん。


「え?」

 結論だけ聞かされて真ん中をすっとばされたせいで聞き返してしまう僕。


「お互い貧乏同士仲良くやりましょう! 人数が多い方が依頼はこなしやすいですよ? どうですか?」

「ん〜、それもそうか」


 要は協力して大きい依頼をこなしましょうっていうお誘いだったようだ。

 確かに三人なら選択肢の幅も広がる。


「私もまだまだ駆け出しですがそれでも君に教えられる事もあるでしょう。一つ協力しませんか?」

 僕を真剣な眼差し見つめながら手を差し出してくる白マイクロビキニのリリアンナさん。


「そうですね。じゃあよろしくお願いします」

 僕は深く頷くと、その手をしっかりと握り返した。



「うむ。この姫騎士リリアンナ、君と共に戦う事をここに誓いましょう!」

 気分が盛り上がったリリアンナさんは剣をスラリと抜いて天井へ掲げた。


「あの、前から気になってたんですけど……」

 僕はそんなリリアンナさんを見て、気になる事が一つだけあった。


「なんですか?」

「リリアンナさんはどこかの国のお姫様だったり、お姫様に仕える騎士だったりするんですか?」


「いえ? なぜです?」

「ええっ!? だって今姫騎士って……」


「うむ。将来的には騎士になり、王子に見初められて姫になる予定です」

「え、それって姫じゃないんじゃあ……」


「語呂がいいんだからいいでしょっ!」

「わ、わかりましたよ。じゃあ明日から一緒に依頼をするって事で。それじゃあまた明日ギルドで会いましょう」


 多少納得できない部分もあったが肩書きの由来もわかったので良しとする。

 そうとなれば明日にでも早速パーティとして活動していきたいところだ。



「ん? 何を言っているのです?」


 いそいそと剣を鞘にしまいながら疑問の声を上げるリリアンナさん。


「え?」

 まさかこんな深夜から依頼を受けるつもりなのだろうか。


「今日からここに泊まらせて貰います。その方が宿代も分割できてお得ですからね」

「ええっ!?」


「何を騒いでいるのですか。さっさと寝ますよ? どうやら君達は二人で一つのベッドを使っているようだし問題ないでしょう。それではおやすみ」

「えええ〜?」


 リリアンナさんは僕が呆気に取られている間に隣のベッドへ潜り込んでしまった。


 そして、こんもりと盛り上がったベッドからはさして時間も経っていないのに、すやすやとかわいらしい寝息が聞こえてくる。



 ……ふぅ、参ったものだ。


 僕はため息をつきながらコロのいるベッドへと戻った。




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