第30話

(ウォームエアでも何かできるかな)


 ティンダーや塩を自在に操れたのでウォームエアでも何かできるかもしれない。

 そう考えた僕はとりあえず軽くいってみようとヘソの下から掌へ魔力を移動させる。


 掌に魔力を集めるとウォームエアの形状をイメージしながら魔法名を叫ぶ。


「ウォームエア!」


 すると真夏のアスファルトの上のように視界が揺らめく空気の塊が発生し、凄まじい勢いで飛んでいった。空気の塊は側にあった木にミシリとめり込み、深い溝を作ってしまう。


「お、おう」

 そんな光景を目撃した僕はあまりに上手くいってしまったため、開いた口が塞がらなくなってしまう。



(もっと薄く伸ばせば木を切れるかな?)


 もっとイメージを明確にして魔力を練ればいけそうな気がする。

 暴発したときは竜巻になっていたが風の魔法ならやっぱりかまいたち状にして飛ばすのがポピュラーだよね。


 僕は再度掌に魔力を移動させ強くイメージする。

 ウォームエアの形状を限界まで薄く鋭くさせ、ギロチンを思い描く。

 魔力、イメージ共に準備が整い、早速魔法名を叫んでみる。


「ウォームエア!」


 が、魔法は発動しなかった。

 イメージも魔力のコントロールも完璧だったのにうまく発動しなかったのだ。



(ふむ、駄目なのか……。まあ、もはやウォームエアじゃないもんね……)


 よく考えてみれば魔法発動前のイメージに温風の面影はどこにもなかった。

 多分、ウォームエアの魔法で発動できるものから色々逸脱しすぎていたのだろう。


(いや、でも発想は悪くなかった気がする……)


 多分、超生活魔法のスキルは威力の増減に収まるぐらいの単純な変化が限界なのだろう。


 あまり複雑な変化や手の込んだ事をしようとすると本来の魔法のイメージから遠のいて発動しなくなってしまうといった感じなのではないだろうか。



(でも、あとちょっとでいけそうな感じはするんだよなぁ……)


 あと何か一つ。


 ほんの少し手を加えるだけで上手くいきそうな手応えを感じる。


 何かが少しだけ足りない気がする。


 そう……。


「ちょっと塩気が足りない気がするな」


 そう結論付けた僕はさっきのウォームエアのイメージの表面に塩を纏わせてみる事にする。

 魔力を集め、塩を纏わせる。


 さっきと同じようにウォームエアの形状を限界まで薄く鋭くさせ、ギロチンのようなイメージを付加する。

 塩は粒ごとに微細に振動、高速回転させるイメージだ。

 準備が整い、早速魔法名を叫んでみる。


「ウォームエア!」


 だが魔法は今回も発動しなかった。


 イメージも魔力の構成も完璧に近かったのだが魔法名を発した瞬間、全てが霧散してしまったのだ。



 ……今やろうとしていた事は温風を出すことではない。



 やはりその辺りがネックになって魔法発動の最終段階で足かせになっている気がする。



(なら名前を変えて発動したらいけるかも?)


 なんとなくだが生活魔法単独でイメージを変えるのには限界がある気がするのだが、異能の【塩】を絡めればかなり無理が利いてしまいそうな感じがするのだ。


 僕はそう考え直し、再度同じイメージをして魔力を集める。


 そして……。


「塩カッター!」


 僕の叫び声と共に掌から三メートル程の純白の三日月が発射され、眼前の木々を切断した。だが塩カッターの威力は数本の木を切断しただけでは治まらず、延々と進み続け眼前に新たな道を作ってしまう。



「こ、これは……」


 僕は眼前で倒れた木々を見て、呆然としてしまう。

 なんて凄まじい威力なんだ……。


 そんな目の前の光景に呆然としていた僕の頭を覚醒させるかのようにコロが叫んだ。



「ご主人様っ! モンスターですわん!」


 そう言いながらコロが川を指差す。


 その声に僕が振り向くと川から這い上がってくる何かが視界に入る。

 目を凝らすとそれらはトカゲやワニを連想させる人型のモンスターだった。

 トカゲ人間のようなモンスターが数匹こちらへと向かってきているのだ。


「塩カッター!」

 僕はこちらへと向かって来るモンスターへ向けて今開発した新魔法をけん制がてらにとりあえず発射してみる。


 するとトカゲ人間のようなモンスター達は塩カッターをかわすことができずにその場で上下に分断され、飛び散った体は地面へ無造作に転がった。


 ……一発で全滅だった。


「うおう……」


 あまりのグロ光景に僕は落ち着こうと塩をペロリと舐める。

 すると心がテレビ越しにスプラッタ映画でも見ているかのような距離感になり、あっさり落ち着きを取り戻す。


「取れましたっ」

 僕が冷静さを取り戻す間にコロはちゃっかりと討伐部位をはぎ取ってくれていた。

 血まみれの何かを元気良く掲げるコロに僕は手を振り返す。


「あ、ありがとう……。とりあえずスキルのテストは終わったから町に帰ろうか」

「わかりましたわん」


 僕はコロから血濡れの耳を受け取るとアイテムボックスへしまう。

 そして町へ帰る準備を整えると二人で街道へと向かった。


「あのモンスターって何だっただろう」

 街道を歩きながら疑問に思ったことを呟く。


「リザードマンですっ」

「へぇ、あれがそうなんだ」


 どうやらさっきのモンスターはリザードマンというらしい。


 確かに僕が持っているゲーム知識と照らし合わせるとそんな感じだった。





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