第16話

「ん」

 そして僕の人差し指をぱくりと口に入れた。


(あれ? 摘んで取ってくれればよかったのに)


 摘み易いようにと指先に出したつもりだったのにこれは誤算だった。



「ん、……なんひゃか……おひふいてくる……」


 僕の人差し指を咥えこみ一心不乱に塩を舐め取るリリアンナさん。

 その行動は段々と慎みがなくなり、ちゅぱちゅぱと激しい音を立てはじめてしまう。


「ちょっ、ちょっと。もうない、もうないから! 全部舐めちゃったから!」

「……んん」

 僕の指から口を離すとつっと唾液が糸を引く。


「も、もう! びっくりしたよ」

「ご、ごめんなさいっ! わ、私としたことがついっ……」


 夢中に塩を舐め取ってしまったことに頬を紅潮させるリリアンナさん。


「ま、まあそういうわけだから君が焦る必要はないと思うよ」


「ええ、本来なら後輩を指導する立場なのに取り乱してすみませんでした。これも何かの縁です、わからないことがあれば何でも聞いて下さい。先輩として色々と協力できる事もあると思います」


 塩の効果か少し冷静な感じを取り戻したリリアンナさんはちょっと頼もしく見えた。



「うん、ありがとう。頼りになる先輩と知り合えて嬉しいよ」


「頼りになるだなんて……そ、そんな。じゃ、じゃあ私は行きます。呼び出したりしてすみませんでした。用があるときはいつでも声をかけて下さいっ、それじゃあっ!」


 リリアンナさんは僕に色々やってしまった事を謝罪するとその場を離れようとした。僕はすかさず塩を出して手頃な皮袋に詰める。


「あ、待って。これ、お土産にどうぞ」


 そして立ち去ろうとしたリリアンナさんに皮袋に詰めた塩を渡す。

 なんかすごく気に入ってたみたいだし和解の印にどうかなと思った次第。



「ん? ああ、さっきの塩ですか。そんなに欲しいというわけでもないのですがありがたく貰っておきましょう。別にそんなに欲しいわけじゃないのですが厚意を無下にできませんからね」


 何か言い訳がましい事を言うリリアンナさんだったがその手の動きは凄まじく、川から鮭をすくい上げる熊のごとき挙動で僕から皮袋を奪い取った。


「また欲しくなったらいつでも言って下さい」

 皮袋を受け取ってくれたリリアンナさんに笑顔で返す。



「ふふ、私はやってやりますよ。ヒルカワだって超えてみせますからね!」


 塩の入った皮袋を掲げながら上機嫌のリリアンナさん。

 きっと根は冒険者という仕事に対してまじめで熱心なだけなんだろう。


「頑張って!」

「キミもね!」


 お互い手を振って別れを告げる。

 リリアンナさんは皮袋を大事そうに抱えながらその場を去った。


「さて、僕も帰るか」

 僕はそんなリリアンナさんに背を向け、歩き出す。

 コロを待たせているしさっさとギルドへ戻ろうと足を速めた。


 ………… 


「お待たせっ!」


 ちょっと肩で息を切らせながらコロの側へと近付く。


「お帰りなさいっ! 大丈夫でしたわん?」


 ちょっと不安げな視線を向けてくるコロ。

 きっと僕と一緒に来たかったのを我慢してここでじっと待っていたせいか妙に全身がぷるぷるしているのがわかる。


「うん、仲直り? じゃないけど揉め事にはならなかったよ」

「わふぅ〜」

 僕の言葉を聞いて胸に手をあてながら安堵の表情を見せるコロ。


「じゃあ依頼を探そうか」

「あ、ご主人様! 時間があったので良さそうなものを見繕っておきましたわん」

 コロはそう言いながらテーブルの上に依頼の紙を三枚置いた。


「おお、助かるよ。でも受けるかどうかわからない物を掲示板から外してきて大丈夫なの?」


「お姉さんに聞いたら貴重な依頼はまずいそうですが、コロ達がやるような簡単なものなら同じ依頼が大量に貼られているので大丈夫って言ってました。受けないなら貼りなおしておくそうですわん」


「そっかぁ。どれどれ……」

 コロが取ってきてくれた依頼の紙を見てみる。


 一つ目はスライム五匹の討伐、二つ目は薬草五つの採取、三つ目は指定されたキノコ五つの採取だった。



「ス、スライムの討伐……、依頼であったのか……」


 その事実に愕然とする僕。

 よく考えればそりゃああるだろう。


 この依頼を受けていれば核の売却とは別に依頼達成の報酬も貰えていたわけで……。


「失敗したなぁ……」


 ちょっとショックだった。


 どうにも僕は余裕がない時こういう事を見逃しがちで気付いた後でがっくりくるまでが定番となっている。

 まあこれからは依頼も同時に受ければいいだけの話だ、と気を取り直す。


 スライム討伐の依頼の詳細を確認すると討伐証明のために核を回収しないといけないようだ。それを提出するとそのまま買取という形になり、討伐報酬分が上乗せされた形でお金が支払われる仕組みになっているようだった。


(ん、スライムの核のストックは結構あるし、ここで掲示板と受付を往復すれば五回くらい行けちゃうけどな)


 毎日スライム狩りに勤しんでいたため、核はコロと二人で依頼五回分回しても大量に残るほど充分な量がある。

 これは楽勝ムードが漂ってきたぞ。


「コロ、このスライムの依頼を受けよう」

「わかりましたっ!」


 というわけでリュックから出すように偽装してアイテムボックスからスライムの核を十個取り出す。そしてコロと半分にわけると依頼の紙をもう一枚取って受付へと向かう。


「何を受けるか決めたのかしらぁ?」

 受付の色っぽいお姉さんが僕達を見つけて聞いてくる。


「あ、はい。丁度スライムの核を持っていたのでスライムの討伐依頼を受けます」


「あらぁ、それはラッキーだったわね。じゃあ、依頼の用紙と核を提出してもらおうかしら」


「はい、お願いします」

「コロも一緒にお願いしますわん」


「はぁ〜い。同じ依頼だから一緒に片づけちゃうわねぇ」



 受付のお姉さんは僕達からスライムの核を受け取ると奥へと一旦引っ込んだ。


 しばらくすると戻ってくるがその表情は驚いているように見えた。


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