第14話

「じゃあ、今日も頑張るか!」

「はいっ!」

 と、僕達はいつも通り冒険者ギルドへと向かうのだった。


 …………


「ちょっとぉ。あなた達〜、待ちなさ〜い」



 今日も今日とて冒険者ギルドでスライムの核の換金を済ませ外へ出ようとしていた僕達を呼び止める声が聞こえる。


 振り向けば受付カウンターの色っぽいお姉さんが手招きしていた。

 何だろう、と思いつつそちらへと向かう。


「何か用ですか?」


「何か用ですか、じゃないわよぉ。あなた達冒険者になってから一度も依頼をこなしてないでしょう〜?」

 ジト目で睨んでくるお姉さん。


「あ、すいません。他に金策があったのと町に慣れようと色々していたせいもあってそこまで手が回っていませんでした」

「だめよぉ〜。何の理由もなく一定期間依頼をこなしていないと資格を剥奪されるわよぉ?」


「ええっ!?」


「マニュアル、読んだ?」

「いえ、まだ……」


 そう、スライムの核を売ることでお金に困っていなかった僕達は身の回りのことを優先してしまって冒険者のマニュアルすら読んでいなかったのだ。



「こらぁっ! ダメじゃない。とにかく今日中に一本依頼を成功させなさ〜い。いいわね?」


「わ、わかりました。それに教えてくれてありがとうございました。もし、忠告されなかったら気が付かない内に資格がなくなっていました……」


 普通冒険者になる人なら即日にマニュアルは読むだろうし、受付のお姉さんもわからないことがあればいつでも聞いて欲しいと言っていた。それなのに僕は今まで何もしてこなかった。

 これは完全にこちらのミスだ。


「もぅ! 時々いるのよねぇ、そういうお間抜けさんが。採取系の依頼か弱いモンスターの討伐依頼なら簡単なはずよ。でもその前にマニュアルに軽く目を通しなさ〜い。わかったぁ?」


「はい、じゃあちょっとあっちの飲食スペースで読んできます」


「ん。掲示板を見て依頼を決めたら用紙をはがして持ってきてね」

「わかりました。それじゃあ、後で」

「はいは〜い」


 僕は受付のお姉さんに挨拶を済ませるとコロと一緒に飲食スペースの方へと移動する。


「コロ。今の聞いてた?」

 僕は静かにしていたコロに向き直って尋ねる。


「はいっ、まずマニュアルを読みましょう!」

 コロは俊敏な動きで懐からマニュアルをシュバッと出してくれる。


「うん、じゃあ席を取っておいて。僕は何か食べ物を買ってくるよ」

「了解ですわん!」


 冒険者ギルド内には飲食スペースがあるのでとりあえずそこでマニュアルに目を通すことにする。ここで読めばわからないことがあれば受付のお姉さんにすぐに聞きに行けるって寸法だ。僕は注文カウンターでフルーツジュースとフライドポテトを購入しコロの待つテーブルへと戻った。


「お待たせ。じゃあ読もう」

「はい!」

 僕とコロは神妙な顔つきで席に着くとマニュアルを無言で読み込む。


 二人してマニュアル片手に僕が出した盛り塩にフライドポテトをちょんとつけて頬張り、ちょっと酸味の効いたフルーツジュースでごくりと喉を潤す。


 ここのフライドポテトはちょっと薄味で塩気が足りなかったのだがそういう時は僕の異能が役に立つ、塩様々だ。


「……なるほど」

「ふむふむですわん……」

 そんな塩付けルーチンをこなしながらマニュアルのページをめくっていく。


「どうやら研修期間ってのが二週間あって、その間に五つ依頼をこなさないと資格剥奪になるみたいだね」


「ご主人様……、確かギルドカードを貰ってから十日経ってますわん」

「うん……」


 だが受付のお姉さんが教えてくれたお陰で幸いにもまだ日は残っていた。

 今日を含めて五日で五つの依頼をこなせばなんとか資格剥奪は免れる。

 これならなんとかなりそうだ。



 と、考えていると――


「ちょっと、そこのあなた!」


 ――不意に声をかけれられる。



 なんだろうと顔を上げれば側に女の人が立っていた。


 僕より少し年上に見える女の人は透き通るような金髪に碧眼、肌は白く、細くしなやかな体つきはモデルみたいだ。


 とても綺麗な金髪は肩ほどまで伸びていてその隙間からは長い耳がピンと飛び出していた。服装は白を基調にしたドレスアーマーを着ていて可憐な印象が増している。


 そんな女性が腰に手を当てて僕をじっと見ている。


「えっと、僕に何か用?」


 これだけ綺麗な人だったら一度会えば記憶に残るはずなのに見覚えが無い。

 向こうは僕が誰か知っているような印象だったけど……。



「あなたでしょ! 冒険者になって早々ゴリアテをのしたっていう新人は!」


 白さが印象的な女の人はカッと目を見開き、僕へ顔を近づけてくる。鼻と鼻が接触しそうになる勢いだ。


「えっと、うん。たまたまだけどね……」


 僕は頬をかきながらその事実を認める。


 とぼけても良かったがあの場には多数の目撃者がいたので隠し切るのは難しいだろう。年上っぽい印象だし言葉遣いに気をつけるべきかもしれないが相手がケンカ腰のせいでついフランクになってしまう。


「ご主人様!」

 そこでコロが勢いよくガバッと立ち上がる。

 女の人が挑発してくるので心配してくれたようだ。


「ん、大丈夫だから」

 僕はコロを手で制する。ここはギルド内だ、この女の人も手荒なことはしないだろう。



「なんでも塩を噴いたそうじゃないですか!」


 クワッと目を見開き、更に顔を近づけてくる。



 額と額がくっついてしまった……。

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