No.76『ゾンビらしさ』

バタン!


根岸「くそっ、どこもかしこもゾンビだらけだ! ちくしょう、この街は、世界は、どうなっちまったんだ!」


ドン、ドンドン


根岸「あいつら、もう来やがった……」


ドンドン


根岸「ドアの向こうには、ゾンビの大群……」


ドンドン


根岸「手持ちの武器は、ハンドガンが一丁……」


ドンドンドン


根岸「ははは、まったく、ゲームか映画の世界だなこりゃ」


ドンドンドンドン


根岸「ああ、うるさいな。ドアなら今開けてやるよ、ただし、鉛玉のオマケつきでな……!」


佐原「ねぎしー、あけてくれー」


根岸「ん?」


佐原「ねぎしー」


根岸「その声は……」


佐原「佐原だぜ!」


根岸「え、なんだよ、ゾンビじゃないのかよ、ちょっと待ってろすぐ開ける」


ガチャリ


佐原「おっすおっす!」


根岸「……」


佐原「どうした根岸、怪訝な顔をして」


根岸「……パンツ一丁じゃん」


佐原「ははは、そういうお前はハンドガン一丁だな」


根岸「え、あ、うん、そうだね」


佐原「……」


根岸「……いや、パンツ一丁よりも」


佐原「ゾンビー!」


根岸「ゾンビじゃねぇか!」


バン! バン!


佐原「ぎゃーす!」


根岸「ゾンビじゃねぇか!」


佐原「ちょっとタンマ、タンマ!」


根岸「……」


佐原「あー、もー……首から上がなくなっちゃったじゃん」


根岸「……なんで頭部を破壊されて動いてるんだ、ゾンビなのに」


佐原「ヘッドショットくらいでくたばると思うなよ!」


根岸「くたばっとけよ、ゾンビ的に」


佐原「そこらへんはほら、割と無敵っていうかね」


根岸「いや、というかどこで喋ってるんだお前」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「?」


根岸「……」


佐原「ほんとだ、どこで喋ってるんだろう」


根岸「……不思議だなぁ……」


佐原「っていうか頭部破壊とか、俺がゾンビじゃなかったら死んでるぞ」


根岸「ゾンビ的にも倒れとけよ。っていうか、うん、ゾンビな時点で死んじゃってるんじゃないかな既に?」


佐原「ところがどっこい」


根岸「どっこい」


佐原「見ての通り、ピンピンだ! どっこい生きてる!」


根岸「全体的にはドロドロに見える。っていうかむやみに明るいなお前。ゾンビなのに」


佐原「身体はドロドロ! 心はポカポカ!」


根岸「おう」


佐原「まあ、心までは腐ってないってことだね」


根岸「そうですか」


佐原「そうなのです」


根岸「ゾンビなのに」


佐原「ゾンビなのに!」


根岸「……え、何、襲ってきたりしない?」


佐原「なんで俺が根岸を襲わなきゃならんのじゃ。襲うなら女子がいい」


根岸「ああ、うん、まあ、そうね」


佐原「そうよ?」


根岸「なんか、イメージしてたゾンビと大きく違う」


佐原「ちょっとゾンビに対する偏見を持ちすぎだな。ゾンビ差別はよくない」


根岸「だってぇ……、ゾンビでしょ?」


佐原「ゾンビだって人間ですよ!」


根岸「元、じゃなくて?」


佐原「オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ人間なんだ!」


根岸「微妙に間違った歌詞だ」


佐原「ゾンビだって生きてるんですよ、ゆえに、人間なのです! Q.E.D.!」


根岸「それだとオケラもアメンボも人間になっちゃうじゃないか」


佐原「人間です!」


根岸「虫だよ」


佐原「まあ、細かいこたーいいいんだよ」


根岸「さいですか」


佐原「あ!」


根岸「どした」


佐原「思い出したよ……。根岸、緊急事態だ」


根岸「お前の頭部が無いことが割と緊急事態だよ」


佐原「そんなことはどうでもいい!」


根岸「……ほんとどこで喋ってるんだろう……」


佐原「外が、大変なことになってるんだ!」


根岸「……」


佐原「ゾンビだらけ!」


根岸「……おう、知ってる」


佐原「いやマジやばいってこれー、落ち着いてる場合じゃないって!」


根岸「お前がまずもう、ゾンビだろ?」


佐原「うん、俺もゾンビなんだけど、問題はそこじゃないんだ」


根岸「何さ?」


佐原「みんな、ゾンビなのに仕事に向かってるんだよ!」


根岸「……」


佐原「……急にゾンビになっちゃったのに……」


根岸「……」


佐原「仕事に……、いつもどおりに……」


根岸「……怖ぇー……」


佐原「な! やばいだろ!」


根岸「やばいな、なんかいろいろやばい」


佐原「ゾンビだし働かなくていいやっていう考えが、彼らには無いんだ!」


根岸「ないのか……」


佐原「今日も平日だから、彼らは仕事に行くんだ! ゾンビだけど!」


根岸「ひゃー」


佐原「彼らは、既に心はゾンビだったのさ……」


根岸「ううむ」


佐原「恐るるは我が国の社畜根性ですわよ」


根岸「いやまあ、立派なことといえば立派なことだろう」


佐原「そうかもしれんけどさー」


根岸「てか、佐原は?」


佐原「ん?」


根岸「仕事」


佐原「サボった! サボタージュ!」


根岸「おお」


佐原「肉体は腐ってても、心までは腐ってないぜ!」


根岸「いや別に会社に向かってる人らも心が腐ってるわけじゃないだろ、責任感とか、ちゃんとある人たちなんだよ」


佐原「心も脳も、動きを止めたら、腐るぞ!」


根岸「んー、まあ、言わんとすることはわからなくもないがな? ―――水だって、流れなきゃ腐るものな」


佐原「そうそれ。ときめきとか、熱意とか大事」


根岸「ううむ」


佐原「というわけで俺は、せっかくゾンビになったので、ときめきを求めて女子を襲おうと思う」


根岸「さらっと問題発言を」


佐原「大丈夫、ゾンビだから、人間の法律とか関係ない」


根岸「さっきと言ってることが違う! ゾンビも人間だって言ってたのに」


佐原「でも、まあほら、俺は紳士だから無理やり襲ったりとかはしませんよ?」


根岸「紳士なのか」


佐原「パンツちゃんと履いてるからな」


根岸「変態と紙一重すぎる」


佐原「正確には布一重だけどな」


根岸「布一重……?」


佐原「……まあ今や街を歩けば、俺から襲うでもなく、女子はキャーキャー黄色い声をあげるんだぜ?」


根岸「悲鳴だろそれ、ゾンビ的に」


佐原「イケメンへの嫉妬は醜いなぁ」


根岸「顔面が無いぞ顔面が」




閉幕

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