No.42『命名』

佐原「子供の名前を考えようと思う」


根岸「あれ、お前結婚してたっけ? っていうか彼女いたっけ?」


佐原「いない! だが考えるのだ! 備えあればすべてよし、って言うだろう!」


根岸「おおまかには間違ってない」


佐原「というわけで、縁起のいい名前を考えようと思う」


根岸「寿限無の話みたいだな」


佐原「そこでだ」


根岸「うん」


佐原「縁起とは何だ」


根岸「あ、予想外の方向へ飛んでった」


佐原「よかったり、悪かったり、担いだりする、行いであったり、物であったりする」


根岸「うん」


佐原「縁起とは、一体!うごごごご」


根岸「なんだろうなぁ、縁起って。 何か例を出して考えてみたらどうだ?」


佐原「そうか、縁起のいいもの、鶴だな!」


根岸「うん、まあ、縁起のいいものっぽいな」


佐原「つまり縁起とは鳥類であったか!」


根岸「それは違うと思う」


佐原「鳥類ではないもの、魚類?」


根岸「いや、そういうはっきりとしたものじゃない気がする、縁起って」


佐原「……鳥類以外の何か」


根岸「ああいや、そういうはっきりしなさじゃなくて」


佐原「じゃあ鶴の何が縁起いいんだ?」


根岸「長生きするんじゃないの? 鶴は千年亀は万年とか言うだろう」


佐原「長生きすると、縁起がいいのか」


根岸「まあ、そうなるのかな? 長寿って字にも寿を使うし」


佐原「なるほど、じゃあ子供の名前は「老人」にしよう」


根岸「佐原老人になるのか……ダメだろそれ」


佐原「じゃあ、男の子ならおじいちゃん」


根岸「佐原おじいちゃん、それはお前がいずれなるものだ」


佐原「あ、わかった、捻りすぎてた」


根岸「どストレートだった気もする」


佐原「長生き」


根岸「佐原長生きくん」


佐原「なんか、名前っぽくないな」


根岸「気がついたか」


佐原「あ、わかった、わかっちゃった」


根岸「ほう」


佐原「縁起が何かなんて考える必要はなかったんだよ、これぞ逆転の発想!」


根岸「まあ、縁起が何かを考える必要がなかったことは確かだ」


佐原「決めたぞ、うちの子の名前は「縁起がいい」だ」


根岸「わぁ、なんて縁起がいい名前ー、ってなるとでも思ったか!」


佐原「ならないのか!? こんなにもシンプルに縁起がいい名前なのに」


根岸「助詞を名前に組み込むんじゃない」


佐原「これがダメとなると、やっぱり縁起とは何かを考える必要があるな」


根岸「……あるかなぁ」


佐原「縁起……。んー。 なんかこう、めでたいとか、いい感じとか、そういう雰囲気?」


根岸「まあ、そんな感じじゃないの?」


佐原「アバウトだなぁ」


根岸「がっちり定義できるものでもないんじゃないか?」


佐原「じゃあ、縁起のいいものを全部名前に組み込む?」


根岸「それこそ寿限無の話だな」


佐原「んー。短く……短く……」


根岸「今度は短くしすぎるなよ?」


佐原「縁起、って名前でどうだろう」


根岸「いいのか悪いのかわからないな」


佐原「じゃあエリンギ」


根岸「キノコじゃん」


佐原「俺の子だよ」





閉幕

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