No.25『不治の疾病』

佐原「根岸!花粉症のほうの根岸!」


根岸「くしゅん! なんだよ、お前の知り合いに花粉症じゃない根岸もいるのか」


佐原「むしろ俺の知り合いに根岸なんてヤツはいない!」


根岸「俺は……?」


佐原「誰だお前!」


根岸「誰だじゃないよ、根岸だよ」


佐原「うん、知ってた」


根岸「なんて無駄なやりとりだ」


佐原「今日は花粉症の根岸にお知らせがある!」


根岸「おう、なんだね。 花粉症真っ盛りだからリアクションには期待するなよ」


佐原「今度の日曜日に、町内の防災訓練があるぞ」


根岸「そういうお知らせか」


佐原「いや、冗談だ、防災訓練なんて無い。というかむしろ町内なんてない」


根岸「町内はあるよ、なくさないでくれ」


佐原「あるかー」


根岸「んで、それが冗談ってことは、お知らせってのは?」


佐原「おう、いいお知らせと、悪いお知らせがあるぞ!」


根岸「じゃあ、悪いほうから聞こうか」


佐原「今日は花粉がたくさん飛んでて根岸がツライ」


根岸「うん。そうだね」


佐原「悪い知らせだろぉ~」


根岸「いや、なんか、そこに関してはもう諦めてるというか」


佐原「そっか、なんだ。 根岸がショックを受けなかったことにショックだよ。 悪い知らせだよ」


根岸「ああ、なんかごめん」


佐原「じゃあ、いいお知らせだ!」


根岸「おー」


佐原「根岸がツラそうでいい気分だ」


根岸「お前がか、お前にとってのいい知らせなのか」


佐原「いや実際俺も花粉症だからそういい気分でもない」


根岸「なんなんだよ……」


佐原「そういやさ、根岸は薬とか飲んでる?」


根岸「んー、寝る前は鼻がつまってると寝られないから飲むよ」


佐原「なんか先輩からいい薬があるって聞いたんだよ」


根岸「へぇ、何て薬?」


佐原「……ええと……」


根岸「……」


佐原「忘れた」


根岸「役立たずめ」


佐原「先輩から話を聞いた直後までは覚えてたのになー」


根岸「その時点で忘れてたらダメだろう」


佐原「なんだったかなー。 根岸知らない?」


根岸「何でお前が忘れたコトを俺が知ってるんだ」


佐原「なんかほら、花粉症になるのと引き換えにエスパー能力を得たとか言ってたじゃん」


根岸「言ってない、なんだその寝言は」


佐原「あー、なんだ寝言かー。 春眠暁を覚えずって言うもんな」


根岸「いや、そういうことじゃないんだけどな」


佐原「あ!」


根岸「思い出したか?」


佐原「うん、そう、アレだ、カタカナ四文字!」


根岸「何て微妙なヒントだ」


佐原「となると、えーと……。 タミフルかイソジンかのどっちかだな」


根岸「どっちかなのか、花粉症関係なさそうな選択肢だな」


佐原「バカお前、あのコトワザを知らないのか」


根岸「どの」


佐原「ばんのうやく」


根岸「コトワザっぽさの欠片もない!」


佐原「中国四千年のコトワザだぞ!」


根岸「えー」


佐原「薬は、万能だっていうコトワザだ。なんにでも効く」


根岸「RPGの状態異常回復アイテムじゃん」


佐原「あとあれ、万能ネギ」


根岸「ネギじゃん」


佐原「ネギは万能だ、っていうコトワザだ。布団たたきから地雷除去まで、なんにでも使える」


根岸「そいつぁ万能だな」


佐原「あ、じゃあネギか」


根岸「何が」


佐原「先輩が言ってた花粉にいい薬」


根岸「それは薬じゃなくてネギだ。 ついでにカタカナ四文字ってのはどこいった」


佐原「細かいこと気にするなよ。 まあ物は試しだ、使ってみようぜネギ」


根岸「ネギ……」


佐原「ネギネギネギネギネーギネギ、うーん、俺の花粉症を治したまえー!」


根岸「え、何……。何それ?」


佐原「何が?」


根岸「俺の知ってるネギの使い方と違う」


佐原「ああ、根岸は地方の豪族出身だからな。 俺みたいな都会の豪族は違うんだよ」


根岸「いや、俺のルーツが豪族かどうかは知らないけど」


佐原「ネギネギネーギーネーギー」


根岸「続くのかよ」


佐原「はっ!」


根岸「ん、終わったのか?」


佐原「はっくしょん!」


根岸「くしゃみか。 治ってないじゃん」


佐原「んー。 もしかしたら花粉症じゃないのかも俺。 花粉症なら今ので治ってるし」


根岸「万能だな、ネギ」


佐原「風邪かなぁ。へっくしょん」


根岸「風邪は無いだろう」


佐原「なんでさ」


根岸「お前、バカだし」


佐原「なんだと! 俺はバカだったのか!」


根岸「お、おう……」


佐原「知らなかった。 はっ、俺がバカだということを知らなかったというのも、俺がバカだからなのか!」


根岸「なんか哲学っぽくなった」


佐原「なんてこった……。これは困ったぞ……」


根岸「どうしたよ。 困っても万能ネギで解決じゃないのか?」


佐原「……何を言ってるんだ根岸」


根岸「ん?」


佐原「バカにはつける薬が無いんだぞ!」





閉幕

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る