No.24『悪魔の壺』

佐原「根岸ー根岸ー、コレ見てくれコレー」


根岸「……何だ、この古そうな壷は」


佐原「昨日フリーマーケットで買ったんだけど、どうやら悪魔が出てくる壷らしいんだ!」


根岸「驚くほど現実味が無い話だな」


佐原「売り子のおにいさん曰く、高名な武人がコレに悪魔を封じ込めて命を落としたらしい」


根岸「魔封波じゃー」


佐原「見ろ、これがその武人の死亡診断書だ!」


根岸「なんでそんなものがココにあるんだ」


佐原「オマケでついてきた」


根岸「手の込んだ冗談のニオイしかしないな」


佐原「そうか? カビくさいぞ?」


根岸「ああ、うん、壷はな」


佐原「というわけで、俺はこの壷を使って、悪魔を召還するのだ!」


根岸「それで、わざわざ俺をこの空き地に呼んだのか」


佐原「広い場所じゃないと悪魔の召還は危ないだろ?」


根岸「いや悪魔の召還はどこだろうが危ない気もするんだけど……」


佐原「保護者は根岸がいるから大丈夫、水の入ったバケツも用意した」


根岸「花火の準備じゃん」


佐原「まあ、花火も悪魔も似たようなものだよ、そこらへんの雑草に悪魔が引火したら危ないだろ?」


根岸「悪魔が引火て、どういうことだ……」


佐原「あ、ライター忘れた」


根岸「んで、まあ仮にその壷が本物だとして、召還してどうするんだ」


佐原「願いを叶えてもらう!」


根岸「それって、ランプの魔人じゃないの?」


佐原「……あれ、そうか」


根岸「悪魔って、何をしてくれるんだ?」


佐原「魂と引き換えに……」


根岸「魂と引き換えに」


佐原「そっと傍に居てくれる」


根岸「やさしい……のか?」


佐原「さみしい現代人に大人気!」


根岸「魂と引き換えだけどな」


佐原「他にもきっと魂と引き換えにいろいろしてくれるに違いないよ。草むしりとか」


根岸「魂と草むしりを交換するのか、割にあわないなぁ」


佐原「バカだなー根岸、大変なんだぞ、草むしり」


根岸「いや、大変だろうけどさ、そのために命を投げ出すお前はもっとバカだと思うぞ」


佐原「あ、わかった、わかっちゃった、裏技発見」


根岸「魂を増やしてくれ、とか?」


佐原「上上下下左右左右コンコン」


根岸「コナミコマンド」


佐原「最後のコンコンは壷をノックする音ね」


根岸「コナミゲーなのかこの壷」


佐原「これで魂とか取られないでお願いを聞いてもらえる」


根岸「すごいな裏技。 んで、何をお願いするんだ?大金持ちにしてくれー、とかか?」


佐原「いや、そういうのは無理でしょ悪魔に」


根岸「無理なのか? なんか万能なものを想像してたけど」


佐原「悪魔だって人間だよ、普通に俺たちにできることくらいしかできないよ。草むしりとか」


根岸「じゃあさほど役に立たないな悪魔。 っていうか悪魔は人間じゃない」


佐原「まあ、猫の手も借りたい時なんかに、悪魔を呼ぶくらい」


根岸「もっと、人を生き返らせたりとか、呪ったりとか、そういうものだと思ってた」


佐原「なにそれ、オカルトじゃん」


根岸「悪魔とか言っておきながら!」


佐原「まあ、もしかしたらできるかもしれないしな。 呪いで草木を枯らしたりとか」


根岸「除草関連ばっかりじゃないか」


佐原「悪魔にできるお願いなんて、せいぜい除草くらいだよ」


根岸「悪魔のスペック低いなぁ」


佐原「というわけで、そろそろ開けてみるか、壷」


根岸「どっか除草する予定あるの?」


佐原「あー……ないわー。 そうだよな、場所指定しないと地球から緑が消えちゃうもんな」


根岸「いきなり悪魔のスペックが高くなった。 やってることは同じなんだけど」


佐原「数億年後には、地球が死の星に!」


根岸「なげー」


佐原「一本一本、根っこからちゃんと抜くから仕方ない」


根岸「丁寧なお仕事ですこと」


佐原「んー、困ったな、草むしりの予定とか無いし。 この空き地の草むしりさせても別に俺の土地じゃないし……」


根岸「あのさ」


佐原「うん」


根岸「もし本当に悪魔が出てくるとして」


佐原「うん」


根岸「なんかこう、願いをかなえてくれる?としてもだよ」


佐原「うん」


根岸「多分、除草関連以外のこともできると思うよ」


佐原「えー、ウソくさー」


根岸「悪魔が出てくるっていう前提がまずウソくさいんだけどな」


佐原「悪魔は出てくるよー、だって入ってるもん」


根岸「いや……えーと……」


佐原「まあ、根岸の言うことも一理あるかもしれない」


根岸「うん」


佐原「一回開けたラムネの蓋を戻したりとか、できるかもしれないもんな」


根岸「なんだその微妙な能力は」


佐原「ラムネ飲むときに、開けちゃってから、あー今ラムネの気分じゃなかったわー、ってときに役立つ」


根岸「えー」


佐原「じゃあ、開けてみるか!」


根岸「あー、うん」


佐原「ダメだったら根岸の能力で蓋を戻してもらえばいいし」


根岸「俺はいつそんな微妙な能力を身につけたんだ……」


佐原「えいやっ」


根岸「……お」


ぼわわわーん


佐原「なんか出た!」


根岸「ホントになんか出た!」


悪魔「我が眠りを妨げしは誰ぞー」


佐原「悪魔?悪魔?」


根岸「うわー、本物っぽーい」


悪魔「ちょっと、初対面の人に対して『悪魔?』とか失礼すぎるでしょ」


佐原「あ、ごめんなさい」


根岸「口調がいきなりフランクになった」


悪魔「悪魔だって人間だよ?キミだってそんなこと言われたら傷つくでしょ」


佐原「はい」


根岸「(悪魔は人間じゃないと思うんだけどなぁ……。ツノ生えてるし)」


悪魔「さて、では行くとするかな」


佐原「えー、お願いきいてくれたりするんじゃないの?」


根岸「(しっぽもあるしなぁ、人間じゃないよなぁ)」


悪魔「残念だが私は未だ過去の契約に縛られた身、新しく契約を交わすことはできない」


佐原「えー」


根岸「過去の契約って?」


悪魔「ふん、ちょうどいい、ここから始めるか。 ウォォォォォ」


佐原「なんだなんだ」


根岸「目が、赤く光って……」


悪魔「目からデビルっ、ビィィィィムっ!」


佐原「ビームだ! 悪魔が目からビーム打ったよ根岸! 除草だけが取り得じゃなかったんだ!」


根岸「いや除草だけが取り得って悲しすぎるだろ!」


悪魔「ビィィィィムっ!」


佐原「お、おおお。 ビームで……」


根岸「……雑草が焼かれていく」





閉幕

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る