No.38『肝試される』

佐原「ドキドキするなー」


根岸「肝試しを男二人でして何が楽しいんだろうかと、俺は今自問せずにはいられないよ」


佐原「女と来たらチャラい感じになって怪談どころじゃないだろう!」


根岸「ああ、なんかガチな感じなのかコレ」


佐原「だいたい、夜の小学校に女連れで侵入とか、なんかホラーというよりエロ方面じゃないか!」


根岸「夜の小学校にいい歳した男が侵入するのはそれはそれで国家権力さんのお世話になりそうだけどな」


佐原「ホラーだな!」


根岸「まあ、現実的に考えたら警察のほうが怖いよな」


佐原「だがそこらへんは大丈夫だ」


根岸「何か手でも打ってあるのか?」


佐原「新学期はじまったばっかりで、きっとセキュリティも気が緩んでる」


根岸「逆じゃないのか? 新学期はじまったばっかりのほうがしっかりしてそうだけど」


佐原「そうでもないぞ、人は長時間外出するときは戸締りをしっかりするもんだが、 案外ゴミを捨てるだけとか、ちょっとの外出くらいなら確認も適当になるもんだ」


根岸「納得できなくはないが……」


佐原「実際、空き巣の被害は朝ゴミを出している数分かそこらの間が一番多いらしい」


根岸「へぇ」


佐原「だから、ほら」


ガラガラ


根岸「ほんとだ、窓の鍵の閉め忘れ」


佐原「予め進入して開けておいた」


根岸「……そうか」


佐原「よし、いくぞ、上履きは持ったか?」


根岸「ねぇよ」


佐原「バカお前、学校に入るのに上履きが無いとか、足跡が残るだろ!」


根岸「靴は脱ぐよ」


佐原「ひぃぃぃぃ!!」


根岸「なんだ、どうした」


佐原「画鋲を踏んだらと思うと、ひぃぃぃぃ! ホラーだな!」


根岸「地味な怖さだな……」


佐原「いやいや、音楽室のベトベーンの目玉が動いたところで痛くないだろうけどな?」


根岸「ポケモンみたいな名前の音楽家だなぁ」


佐原「ピアノがひとりでに鳴り響こうが、二宮金次郎がギター弾いてようが、痛くないから怖くない」


根岸「なんだその基準」


佐原「だが骨格標本、あいつはダメだ」


根岸「ダメなのか」


佐原「あいついきなりキレて殴りかかってくるからな、超あぶない」


根岸「ホラー、なんだけど、なんか怖さのベクトルが……」


佐原「まあ、入ろうぜ」


根岸「ああ」


佐原「画鋲に気をつけろよ」


根岸「廊下とか暗くて気をつけるもなにもないけど」


佐原「今日は月も出てないからな、絶好の肝試し日和だ」


根岸「真っ暗だなほんと」


佐原「今日はオオカミ男に襲われる心配もないから安心だ」


根岸「いや、学校の怪談でオオカミ男はおかしいだろう」


佐原「襲われたら貞操が奪われるぞ」


根岸「怖ぇ!」


佐原「さて、この学校に伝わる二不思議のうちのひとつがココだ」


根岸「随分少ないな」


佐原「元々は数百の不思議が渦巻いていたのだが、科学の発展で大体解明されたらしい」


根岸「科学すげぇな」


佐原「ほぼニワトリの見間違いだったらしい」


根岸「ニワトリ……学校で飼育してるやつか。っていうか科学……」


佐原「まあ、校舎内をうろつく三本足のニワトリの謎はいいとして、ここが最初のミステリー」


根岸「暗くてよく見えないが、何室なんだ?」


佐原「ここが通称、開いちゃう開かずの扉だ」


根岸「開いちゃうのかー」


佐原「不思議だろう? 開かずの扉なのに、開いちゃうんだぜ?」


根岸「うん、不思議だな。誰だよ開かずの扉とか言い出したの」


佐原「ちなみに中は社会科資料室です」


根岸「ああ、一般生徒からすれば開かずの扉か」


佐原「ちなみに、二不思議のうちもうひとつは見つかっておりません。あるはずなのに、どこにもない。ふっしぎー」


根岸「不思議なだけで終わった! っていうかこれも誰だよ二不思議とか言い出したの!」


佐原「そこも含めてミステリー」


根岸「どこら辺が肝試しだったんだコレ」


佐原「あ、今のはただの二不思議紹介だよ」


根岸「なぬ?」


佐原「肝試しはここからです」


根岸「ほう」


佐原「まず、こちらにいらっしゃる人型の影の方々」


根岸「な……。え……。なに?なにこの人たち。真っ暗なのに、人型なのがわかる。っていうか何、影……?」


佐原「コノ人たちに、これから腹を掻っ捌かれます」


根岸「へ?」


佐原「あ、動くと変なトコ切れちゃうよ」


根岸「ひっ」


佐原「腹を開かれたら、中から肝が出されて試食され――





閉幕

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