ヒトノテとネコとヒザマクラの夢

偽尾白

1 ヒトノテを借りたネコ

滅びた人類の叡智を託された猫が支配する世界は、平和そのもの。

人類の遺産を流用した生活は高度に清潔で快適だった。

「ヒトノテ」は人類が遺した最後の贈り物。ネコは毎日ヒトノテを装着して便利に使っている。

ヒトノテは便利だけど、ネコが憧れるのは「ヒザマクラ」。

ネコはいつでも、ヒトが恋しいものなんだって。

我々ネコは、いつでも、ヒトが恋しい。


「最初のネコ」は大勢いた。

人類の手によって造られた。

百やそこらは居たらしい。

品種改良前の猫である「本来の猫」の身体能力を飛躍的に高めたのが「最初のネコ」だ。


本来の猫。

他の種に比べても抜群に強かで素速くてしなやかで、何より、賢い動物だったという我々の祖先は、なぜか滅びの病に罹らなかった。

とにかく、人類の科学者たちは滅びの病には抗えなかったけれど、代わりに、我々の祖先「最初のネコ」を生み出すことには成功した。

超強化猫である「ネコ」。

後脚で二足歩行できる。

前脚で逆立ちだってできる。

もとから素晴らしかった猫のあらゆる能力、そしてあらゆる疾病への耐性も向上してるんだ。

傷なんか余程のものでなければ、舐めときゃ治る。

凄いだろ。


「最初のネコ」は人類の全てを受け継いでいたんだ。住居、設備、道具、諸々。文明は、そっくり我々ネコの手中にある。

改良前の「猫」は、これらを理解できなかったというけど、本当かな。

賢い動物だったはずなんだけど。

ともあれ、人類がそうだったろう様式に則って、我々は暮らしてる。


我々の身体能力、特に隠密行動はどんな種の生物ををも上回る。凌駕する。

品種改良前のご先祖、猫のそのまたご先祖の時代から、我々の種族は夜目が利いたという。

まったく誇らしい。

夜目が利いて隠密に優れているから、大きな獲物も皆で奇襲して倒せる。

我々はみんなヒトノテを装備して、罠や弓のような狩猟道具も使う。ヒトノテは便利。


ヒトノテ。

人の手、だからヒトノテ。

我々の画期的な装備。

怪我や病気で手脚が使えなくなったり失ったときに使う、義肢という機械を、人類は持っていた。これは大した発明だ。装着すれば、元通りに四肢を使えるわけだ。

これをネコ用に改良したのが「ヒトノテ」ってわけ。


ヒトノテがあるから、人類の様々な道具をそのまま使える。ネコの手じゃ、人間の道具は使いにくいから。

ヒトノテのおかげで、ほぼ全ての道具は、そのまま我々に流用できた。

毎日当たり前に使ってるけど、人類の発明あってのネコだってことを、我々は忘れちゃいない。

そもそも、我々「ネコ」自体が、人類の最後の発明とも言えるわけだけど。

ともあれ、ヒトノテは、ありがたい。

「猫の手も借りたい」なんて言ったそうだ。

ヒトノテが無くとも、扉を開けるとか、支えるとか、押すとか、ちょっとした重石代わりくらいには助けになったことだろう。

いまは我々ネコが「ヒトノテ」を借りてる。


ヒトノテのメンテナンスをするためには、やっぱり、予備のヒトノテを使う。予備は各々みんなが、自分のを所有してる。

予備といっても性能に違いは無くて、他の誰かのヒトノテとの違いも無い。どちらでも、あるいは誰の予備でもいいんだ。

出掛けた先で壊れたり調子が悪くなることもある。そんなときは傍に居る誰かにヒトノテを借りる。

たいていは借りるまでもなく、直してくれる。

こういうことはお互いさまだ。

とにかく、我々ネコの生活は、ヒトノテ無しには立ち行かないってこと。

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