倒れない草

昔、

雪が積もるとまっ先にそこへ走った。

枯れてはいるけどまだ倒れない草があった。

硬い草だった。

僕等はただ夢中で

古いソリを引いて雪の斜面を登っていた。

息を切らしてもてっぺんは遠く、

だからてっぺんはあきらめて

中途半端な高さから一斉に滑り出す。

二回目を登るとてっぺんはさらに遠く

硬い草もまた僕等の息を上げさせる。

僕らにとってそれは

果てしなく高い山だった。


冷たい冬にも笑いあえた場所だから

今になって急に悲しくなって、懐かしくなった。

帰り道とは違う方向に曲がって 早足で歩き出す。

幼い頃のように胸を躍らせながら

果てしなく高い山を目指す。

あのときのあばら家はあるだろうか?

角の家にいた利巧そうな犬はしっぽを振ってくれるだろうか?

考えながら道を行く。

でもそこに山はない。

小さな丘があって、

でもそれは丘と呼ぶのも相応しくない程の

単なる急な斜面であって。

僕は余計に淋しくなったけど

口もとがほころんで

素直な笑顔は戻ったみたいで

僕は少しだけ今から解放された。


昔 僕の視界を遮った草が

今、腰にもとどかなくなったけど、

硬い草が枯れたままで立っていた。


              ~倒れない草~

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