黒いアコードワゴン

初めての待ち合わせ。

さっそうと現れた 君の

黒いアコードワゴン。

その助手席は 僕だけの特別席だった。


君が得意気に連れて行ってくれた

絶好の夜景スポット。

アコードワゴンの中で

ようやく「好きだ」と言ってくれた。


僕らの大事なアコードワゴン。


デートの帰り道、

君が 僕の家とは反対の方向にアコードワゴンを走らせる。

もうちょっとだけ 2人の時間。

いや、2人とアコードワゴンの時間。


恋人だったときも、

一度離れて 他人に戻ったときも、

また一緒になって夫婦になってからも

僕らの特別な場所。


思い出たっぷりで、

それは

いい思い出も 悪い思い出も

数えきれないほどたくさんあって、

僕らの思い出のほとんどが、

この黒いアコードワゴンと一緒だった。



だけど ごめんね、アコードワゴン。



これからの生活に一緒に連れて行けないんだ。

査定で『いい車ですね』ってほめられたけど、

僕はその瞬間 複雑な気持ちで、

素直に喜ぶなんてできなかった。


黒いアコードワゴン。

手離すことが決まった夜、

僕は一晩中 泣いて君にやつあたりして。

だけど、

本当に泣きたかったのは

君の方だったんだね。



僕と君の大事な大事な

アコードワゴン。



お別れの朝、駐車場を出て すぐに停まった

アコードワゴン。

君は短いクラクションで 僕を元気づけてくれた。


どんどん離れる アコードワゴン。

いつも見る後姿が、今日はなんだか悲しくて、

もし 車に感情があるのなら、

黒いアコードワゴン、

お前はどんな気持ちなの?


ありがとう。

ごめんね。

黒いアコードワゴン。

どうか、

次にお前を手にする人が

車好きのいい人でありますように。


              ~黒いアコードワゴン~

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