第二十四話 活動する冒険者たち



 ギルドの中央に設置されているクエスト掲示板は、かなりの横幅がある。

 ランクAからCで一面、ランクDからランクFで一面に分かれ、両面いっぱいにクエストが張り出されている。

 それがギルドにおける毎朝一番の出来事であり、冒険者たちが一番に群がる時間でもあるのだ。早い者勝ちなので当然と言えば当然である。

 だからマキトたちのように、普通に宿屋で朝食を食べてから来ても、余っているクエストしか受けられないのが関の山だったりするのだ。

 今度はもう少し早く来ようと思いつつ、マキトは掲示板に残っているクエストを見ていった。


「結構まばらだな」

「ランクFは結構たくさん余ってますね。どうしてでしょうか?」

「さーね。そんなことより、俺たちも選んでいこう」


 特に細かいことも気にせずに、マキトはのんびりと張り紙を見ていく。すると、一枚の用紙に目が留まった。


「……これなんか面白そうだな」


 マキトはその張り紙をペリッと剥がし、ラティたちにも見せる。


「えっと……『南の森で採取せよ!』ですか。薬草を集めるクエストですかね?」

「いや、毒草とか果実とか、とにかく色々集めれば良いらしい。集めれば集めた分だけ報酬も上がるってって感じだな」

「ピキピキッ、ピキッ!」


 突如、マキトの肩に乗っていたスラキチが、マキトに何かを話しかける。


「スラキチ? どうかしたのか?」

「南の森って昨日遠くに見えた森のこと、って聞いてるのです」


 ラティの通訳に、マキトは昨日見た光景を思い出す。


「多分そうじゃない? 他に森みたいな場所なんて見えなかったし」

「キュ、キュッ!」


 今度はマキトの頭の上に乗っていたロップルが、スラキチと同じようにマキトへと話しかけた。


「どんな魔物さんが出てくるかも気になるって、ロップルが言ってるのです」

「確かにそれもそうだな。場所とか色々と調べてから行ってみるか」

「ですね。じゃあ、このクエストを受けてしまいましょう」

「おう」


 マキトたちは張り紙を手に、楽しそうに受付カウンターへ向かって行く。そんな彼らの姿を、周囲の冒険者たちが奇怪な目で見ていた。

 とある獣人族の男の冒険者が、パーティメンバーにヒソヒソ声で話しかける。


「……なぁ、あのちっこくて羽根生やした女の子、普通にスライムの言葉を聞き取っていなかったか? それ以前に、妖精って本当にいたんだな」

「今更そこに驚くのかよ? それはともかく、妖精ってのは普通に、魔物と会話ができるらしい。スフォリア王国へ行ったとき、そんなことをチラッと聞いたぞ」

「マジかよ? つーかどうやって魔物の言葉を読み取ってんだ?」

「流石にそこまでは分からんさ」


 再び視線は受付にいるマキトたちへ。ラティも受付嬢に話しかけており、普通に笑顔で対応されていた。

 自分たちがここまで驚いているというのに、顔色一つ変えず、笑顔のまま相手をしている彼女たちの姿に、冒険者たちは思わず感服する。

 そしてふと、一人の冒険者がニヤリと興味深そうに笑みを浮かべながら、ラティのほうに視線を向ける。


「魔物の言葉を読み取れるってのはスゲェよな。さぞかし役に立つんだろうぜ」

「言えてるかもしれんが、別に必須ってワケでもないんじゃないか? 魔物と意思疎通が必要になってくる状況なんざ、そうそうないと俺は思うがね」

「あー、確かになぁ……せめてこう、色気タップリな大人の女性に姿を変えて、華麗に戦うみたいな能力でもあれば……」


 冒険者の誰かが鼻息を荒くしながら言うと、周辺の空気が一気に下がった。


「いや……いくらなんでも、それは流石にないだろ」

「つーかそれ、単なる願望じゃねぇのか?」

「べ、別に良いだろ? なんでここにきて急にノリが悪くなるんだよ!」

「なんでって言われても……なぁ?」

「あぁ。正直どう返答したら良いのか、全く分からんな」


 冒険者たちがギャーギャーと騒いでいる傍を、クエストを受けたマキトたちが、ワクワクした表情で通り過ぎていく。

 数分後、マキトたちがとっくにギルドを後にしていたことに気づき、別の言い争いが始まるのだが、それはまた別の話である。



 ◇ ◇ ◇



 一方その頃、エルフ族の青年率いる四人組の冒険者は、王宮へ向かって歩いていた。道中も話題は尽きないのはいつものことだが、今回は話題の内容的にも、かなりの盛り上がりを見せていた。


「あの子ってホント何者なんだろーね? フェアリー・シップだけじゃなく、妖精までテイムしてるんだもん。もうジルさんは興味津々でございますよ♪」


 小柄なエルフ族の少女、ジルの目がキラキラと輝き出す。

 水色の短めなポニーテールが躍る様子が、まさにジルの気持ちを表しているかのようであった。


「気持ちは分からんでもないが、ちゃんと前を見て歩いたほうが良いと思うぞ?」


 隣を歩いている大柄な獣人族の青年、オリヴァーのたしなめる声により、ジルは途端にふくれっ面を見せる。

 少しはノッてきてよとオリヴァーの体をジルが叩くが、分厚い鎧を身に着けている彼には全く効いていなかった。実にうっとおしそうな表情で、こげ茶色の短髪をボリボリと掻いている。

 やがてジルが叩く手を止め、拗ねた表情で前を見る。


「全くオリヴァーはカタイんだから……ねぇ、ラッセルも興味深いと思わない?」


 前を歩くラッセルと呼ばれたエルフ族の青年は、少し考える素振りを見せた後、落ち着いた表情でジルの問いに答える。


「思わなくもないが……少なくとも今は、オリヴァーに同意するかな」

「むーっ! ラッセルまでーっ! なんでそう思うのさ?」


 声を荒げるジルに対し、ラッセルは結わえた金髪を揺らしながら淡々と言う。


「考えてもみろ。俺たちは王宮へ向かって歩いているんだ。たとえそうでなかったとしても、ちゃんとしておくというのは、むしろ当然のことだと思うんだがな」

「うぅ……それは確かにそうかもしれないけどさぁ……」


 それでも何かを言い返してやりたい。そう思っていたジルだが、肝心の言葉が出てこないでいた。そこにジルの隣を歩く少女から、トドメの一言が放たれる。


「ジルの負けだよ。そもそもラッセルに言葉で勝てた試しがないじゃない」

「アリシアまで……」


 恨めしそうな表情で、ジルは隣を歩くセミロングの少女、アリシアを見る。


「同じエルフ族の女子として、分かってくれるって信じてたのに……」

「そこまで言うほどのことかなぁ?」


 エメラルドグリーンのふんわりとした髪の毛を片手で押さえながら、アリシアは苦笑を浮かべる。

 ちなみに同じエルフ族だとベルは言っていたが、正確にはハーフエルフである。エルフ族と人間族との間に生まれた子であり、純粋なエルフ族のジルよりも、耳が少し短めなのが大きな特徴である。

 何十年も昔では、他種族とのハーフはいじめの対象などになりがちであったが、今ではハーフもクォーターも珍しくなく、アリシア自身もジルを筆頭に、エルフ族や他種族とも交流を重ねてきた。

 その結果こうして、エルフ族のラッセルやジル、獣人族のオリヴァーとパーティを組んでいる。今までに混血が悪い枷になったことも全くない。

 今ではアリシア自身も、自分がハーフエルフだということを大っぴらにしているくらいなのだった。


「さぁ、そろそろ王宮へ着くから、少し身なりを整えておいてくれ。メルニーさんがいるとはいえ、俺たちはあくまで余所者だからな」


 ラッセルがそう言うと、オリヴァーが思い出したような反応を見せる。


「そういえばこの国の王宮は、庶民の出入りも自由だったか。また随分と開放的なモノだな」

「王族と庶民の仲が良好である証だろう。良い国の姿そのものじゃないか」


 笑みを浮かべるラッセルに、オリヴァーたちも確かにと頷いた。

 王宮に出勤する兵士や魔導士たち、遊びに来た庶民の小さな子供たちに交じり、ラッセルたちは王宮の中へと入っていった。

 きらびやかな装飾で飾られた広間を歩いていると、ラッセルたちに向かって早足で歩いてくる一人の女性の姿があった。


「メルニーさん、迎えに出てくれたんですか?」

「えぇ。皆が王宮に遊びに来るって、昨日聞いたからね。折角だから、私もご一緒させてもらおうと思ったの」


 ラッセルたちを出迎えたのは、メルニーと呼ばれるエルフ族の女性であった。

 彼女はスフォリア王国で宮廷魔導師を務めており、この度サントノ王国へ出張に来ているのだった。

 基本的に宮廷魔導師は、各王国に一人所属する決まりとなっているのだが、元々獣人族は、魔導師が極端に少ないのが特徴であり、そこがネックでもあった。

 そこで代々、サントノとスフォリアの両国が手を取り合い、エルフ族の魔導師をサントノ王国へ出張させる代わりに、特産品などの貿易関係を優遇する、という図式が出来上がったのだ。

 出張する宮廷魔導師は定期的に切り替わり、今回はメルニーが選ばれた。

 ラッセルたち四人は、メルニーを護衛する特別クエストとして、サントノ王国まで同行してきたということである。


「それにしても、昨日は物凄い歓迎っぷりだったわ。まるで女神様のように扱ってくるのよ? 私なんてただのしがない宮廷魔導師でしかないのに……皆は一体、この私に何を期待しているのかしらね?」

「……いやいやメルニーさん、それって本気で言ってますか? スフォリア王国にいたときも、それはもう凄まじい人気っぷりだったじゃないですか」


 本気で自覚していないメルニーの様子に、ドン引きしながらジルは言う。

 メルニーは容姿的にも内面的にも、かなりの上玉である。

 実際スフォリア王国では、国民やギルドからも大いに慕われており、今回の出張に関しては、頼むから行かないでくれと言う声が押し寄せていた。それでも国同士のやり取りに関係することでもあるため、なんとかスフォリア国王が国民やギルドを説得し、こうして実行に至ったという裏話がある。

 ちなみにスフォリア王国では結構ありふれた光景であり、他国でも割と有名となっているのだが、メルニー自身は全く気づいていなかったりする。


「あら、人気で言ったら、アナタたちもでしょ? 特にラッセルくんのウワサは、王宮にもかなり届いているわよ? 女の子の話ってホント怖いわよね。良くも悪くも広がりやすいから♪」

「え、それってどんな感じなんですか? あたし気になりますっ!」

「俺も気になりますね。まぁ、大体の想像はつきますが……」


 メルニー、ジル、オリヴァーの視線がラッセルに集中する。

 まるで三人は、面白いモノを見るかのようなニヤニヤした表情を浮かべており、ラッセルは背筋を震わせる。

 このまま黙ってたらマズいことになる。そう思ったラッセルは、話を止めるべく慌てて割り込んだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。折角メルニーさんが、こうしてわざわざ俺たちを出迎えてくれたんだから、いつまでも立ち止まっているのは失礼だろう? ムダ話なんてしないで、さっさと静かに移動するべきだ。なぁアリシア、キミからもなんとか言ってやってくれないか?」


 アリシアなら分かってくれるハズだと、ラッセルは心から信じていた。優しくて思いやりのある彼女なら、止めてくれるに違いないと。

 しかし――――


「私も結構興味がありますね。だから教えてください」

「な……っ……!」


 迷いのカケラもない物言いに、ラッセルは口を大きく開けていた。

 そんな彼に、オリヴァーはフッと静かに笑み浮かべながら、ゆっくりと近づき、優しく肩に手を置いた。


「諦めろラッセル。潔く観念するんだな」

「そーだよ。もしかしたら良いウワサかもしれないじゃん♪」


 ジルの言葉に、ラッセルは素直に頷けなかった。オリヴァーの言うとおり、もうどうにでもなれと諦めた。

 自分にとって都合の良くない話が飛び込んでくるのだろうと、直感的に確信しつつ。

 ラッセルは、焦りと聞きたくないという気持ちから、どうしてこんなことになったんだと必死に考え出していた。


(な、何故だ? 何故いつもいつも、呆れられたりため息をつかれたり、挙句の果てには「少しは人の気持ちを考えてやれ」と言われてしまうんだ? 俺はただ、一生懸命冒険者の仕事を……皆が平和に暮らすために、より良い世界を作ろうと頑張っているだけだというのに!)


 ラッセルの中に、モヤモヤとした苛立ちが募る。

 目の前ではメルニーが何かを語り出し、ジルは唖然とした表情を浮かべながら、ラッセルのほうをチラリと見た。オリヴァーは盛大なため息とともに、またなのかと言いながら頭を抱える。アリシアはというと、ひたすら苦笑いを浮かべるばかりであった。

 言葉は耳に入ってこないが、どう見ても周りはプラスとして見ていない。それが余計に、ラッセルの苛立ちに拍車をかけていた。


(俺はずっと正しくあり続けてきた。何も間違えてなんかいないハズなんだ!)


 自らの正義を持って、世界のために悪と戦う。それがラッセルの絶対的な信念であった。

 そしてそれは、決して間違ってないという自信もあった。

 体を鍛え、剣の腕を磨き、幾多の恐ろしい魔物を討ち取っていく。これまでもずっとそうしてきたし、それはギルドのランクにも、しっかりと反映されていた。


(この護衛クエストを終えて帰れば、俺はランクBの承認試験を受けられるんだ。つまり俺には、それだけの実力があるということなんだ!)


 現在のラッセルはランクC。ギルドのルール上、ランクB以上は特別な試験をクリアしなければならない。承認試験と呼ばれるそれを受けるためには、これまた色々な条件を満たす必要があるのだ。

 例えば、重要人物を送り届ける護衛クエストをこなすなど、決して簡単ではないモノばかりなのである。


(ただ力が強いだけじゃダメなんだ! 果てなき正義の意思を貫けない限り、承認試験を受けるチャンスさえ、もらうことはできないんだ!)


 ラッセルの表情が段々と険しさを増してくる。他人から見れば不安に、そして知人から見れば、いつもの暴走かと呆れている。

 アリシアたちはメルニーを含め、完全に後者であった。

 それを見たオリヴァーが、手を振りながら「おーい、大丈夫か?」と声をかけているが、その言葉は全く届いていなかった。

 流石にメルニーも、そろそろ止めたほうが良いかと声をかけようとするが、ジルに首を横に振りながら精される。呆れの入った声で「すぐに収まりますから」という言葉を付け加えながら。


(色々と不足な事態もあったかもしれないが、得られたモノも実に大きかったと言えるだろう。あの戦いで俺たちは、更なる経験値を積み重ねることができたんだ。俺たちのこれからのための、大きな糧となったに違いない!)


 ラッセルは自分なりに反省しながらも、それ以上に前向きな気持ちであった。フッと笑みを浮かべるその姿は、どこか自信に満ちている。

 そんな彼に、アリシアたちは呆れた表情を浮かべていた。笑顔だが、その口元は完全に引きつっている。

 そんな彼女たちの様子に、当の本人はまるで気がついていないのだった。


(全ては……終わりの見えない、果てなき正義の名のもとに!)


 ラッセルは心の中で、自らの信念を改めて固める。

 ちなみに仲間たちは揃って呆れた表情を浮かべていた。「今日は長いな……」という呟き声を、ひっそりと入り交えながら。



 ◇ ◇ ◇



 サントノ王都から南に進み、森が近づいてきたところにマキトたちはいた。

 マキトたちは大きく手を振りながら、外見が地球に生息しているトラのような、一匹の魔物を見送っている。それはキラータイガーと呼ばれる魔物であった。


「バイバーイッ!」

「気をつけて行けよーっ!」

「ピキャーッ!」

「キューッ!」


 別れを告げるマキトたちに、去りゆくキラータイガーは振り返り、凄まじい雄叫びで返してきた。そして、そのままゆっくりと歩いていった。

 やがてキラータイガーが見えなくなると、長い息を吐きながら、マキトはここで起こった出来事を振り返る。


「……にしても、アレは流石にビックリしたよな」

「いきなり飛び出して、いきなり倒れちゃいましたからね。むしろ驚くなと言うほうが無理な話だと思うのです」


 南の森を目指していたマキトたち目掛けて、一匹のキラータイガーが、岩陰から飛び出してきた。しかしその直後、キラータイガーは地面にドサッと倒れたのだ。

 一体何事かと恐る恐る近づいてみると、ぐったりとしたキラータイガーから、大量の血が流れ出ていたのだ。

 このまま放っておいたら、間違いなくキラータイガーの命は尽きてしまう。マキトたちは、助けようという無言の頷きが一致したのだった。

 手を尽くして介抱した結果、キラータイガーの命は取り留めた。ラティの回復魔法に加えて、昨日大量に集めた薬草の中で、効果の高い薬草を少し残しておいたのが、功を奏したのだ。

 無事に意識を取り戻したキラータイガーは、マキトを見るなり警戒心をあらわにしていたが、助けてくれた恩人だということを知るなり、大人しくなった。

 ラティを通してキラータイガーの話を聞くと、大ケガの原因はヒトに襲われたからとのことだった。

 ある日突然、数人がかりでナワバリに入ってきたらしい。なんとか追い払うことには成功したものの、代償として深い傷を負ってしまったのだった。

 倒れるわけにはいかないという一心で這い上がり、歯を食いしばってここまで来たのだが、既に体力も気力も底を尽きそうになっていた。

 そこへやってきたのが、マキトたちだったというワケである。

 この恩はいつか必ず返すと約束し、キラータイガーは再び歩き出していった。それらの出来事を回想しつつ、マキトは思ったことを口にする。


「恐らく放っておいても、誰も文句は言わなかったんだろうな」

「そうですね。マスターはどうして助けようと?」


 ラティの質問に、マキトは苦笑を凝らしながら答える。


「さーな。気がついたら助けたくなってた。特に深い理由なんてないよ」

「わたしもそんな感じなのです。ロップルたちはどうなのですか?」


 ラティが尋ねると、ロップルもスラキチも揃って笑顔で鳴き声をあげた。

 どうやら自分たちと同じ気持ちなのだろうと、ラティとマキトは思っていた。

 助けたキラータイガーがどうなったのかは分からない。あくまで命を繋ぎ止めただけなので、まだ戦える状態ではない。冒険者や他の魔物に襲われたら、今度こそひとたまりもないだろう。

 しかし、それでも構わないと、キラータイガー自身が言っていた。ここまでしてくれただけでもアンタたちは大恩人だと、ラティの通訳の元、感謝されたのだ。

 いつかまた、どこかで会えることを望みつつ、マキトは目的地である森を見る。


「さて、それじゃあそろそろ森に入ろうか」


 改めて森を見上げながら、マキトは集めた情報の一つを思い出す。

 小さいように見えて、意外と大きな森だから気をつけろ。という話であった。

 ひしめき合う木々が薄暗さを演出しており、魔物もたくさん潜んでいる雰囲気を醸し出している。駆け出しの冒険者が腕を磨くには、実に最適な場所だという話が分かったような気がした。

 背負っているバッグを揺らしながら、マキトは足を一歩、踏み出した。


「よーし、行くぞっ!」


 思いっきり足を蹴って駆け出す。魔物たちも元気な声とともに付いてくる。

 森の中へ入っていくマキトたちを見送るかのように、小さな風の掠れる音が、わずかに響き渡るのだった。


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