第39話 歪ム



いつからか、夢を諦めた―――かかえきれない夢を持ったが、叶えたいのはどれだかわからなくなった。そしていつしか、コンビニのバイトに成り下がっていった。

いつか、人生は幸せになれるものだと信じていた。けれど、実際はこんなものだ。そう自分に言い聞かせ、ここまで歩んできた―――


明日はX'mas。世間のリア充どもはイチャつく。俺は三十で。ある程度の話相手はいるものの、友人はほぼ皆無だ。

まあいいや、そう思い近くのコンビニに入る。いつしか、自分のバイト先と同じチェーン店のコンビニにしか入らなくなっていた。

「うー寒……」

一人言を呟き、イージーリスニングのBGMを聞き流しながら弁当売り場に向かう。300円ののり弁を適当に選び、レジに向かう。

「温めはどうしますか?」

レジの顔立ちの整ったお姉さんが聞いてくる。

「はい」、と返しながら俺はあんたに暖めて貰いたいわ、とか思いながら弁当を受け取る。

「ありがとうございましたー」背中に声を受けながら店を出る。

「あー、マジかー……」

空を見上げると、遥か彼方からは白い粒が降ってきていた。

「彼女もいないのにホワイトクリスマス……ってか、積もらないといいけどなー」

基本的に徒歩と自転車の俺にとって、アイスバーンとなれば死活問題だ。チャリで滑って転んで死んだりしたらシャレにならん。ガキんころは雪だゆきだと、騒いで嬉しかったものだが。今は大して嬉しいものでもない。

しんしんと降る雪の街を歩く。それだけで違う世界のようで街並みが違って見える。


ふと、既視感デジャビュを感じて強い目眩がした。

なにもかもが夢のような感覚に意識が覆われてゆく。微睡みと意識がついえるような。

もう際限なく繰り返してるような、胡蝶の夢のような。あれ、本当に俺はここにいるんだっけ。

思考が錯綜して混乱している。

それになんだか体調もよくない。

頭痛。目眩。動悸。けれど寒くて。

気づくと雪も強く降って吹雪いている。

辺りは次第に白く覆われていって、銀世界に染まってゆく。

やばい、ガチ寒い…………死にそ…

体の芯まで冷やされていく感覚により、俺は意識を喪った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る