第119話 里帰り(その24)

 A子は自身の呪いを知らないでいるのであろう。病気と言う言葉で濁しているだけなのかもしれないが、A子の性格なら決して信じまい。ご主人様は少しやるせない気分で夜空を仰いだ。


「……何もそこまで義理堅くても」

「いいんです。話さないといつまでも胡散臭い女だと思われたままでしょうし」

「そーかい」

「いつまでも得体の知れない女雇ってると嫌でしょ」

「それはそれで面白いけどな」

「変な人」

「お互い様だ」


 二人は同時に吹き出した。


「つーか」

「?」

「お前さん、いつまでうちでメイドやる気なんだ?」


「んー」


 A子は傾げ、


「気が済むまで」

「なんだそりゃ」

「これはこれで楽しいですし。ぶっちゃけ、覚えのない人生に縛られるよりはこうしているほうが気が楽です」

「そういうもんか」

「そういうもんです」


 そう言うとA子は何か察したのか、ご主人様を険しい顔で見た。


「……それとも何ですか、もう雇う気ないと?」

「いや、それは……」


 ご主人様は困惑した。何故そんな事を訊いてしまったのだろうか、と。

 理由は分かっていた。



 ありゃあ、お前の嫁にする気だ。



 ご主人様は暫し沈黙する。思案しているように見えるが、実は何も考えていなかった。

 だから、自然にそれが口を次いで出た。


「……つーかA子、もし、なんだ」

「?」


 A子は神妙な面持ちをするご主人様を見て戸惑った。


「あー、お前が良ければ……このままずうっと」

「ずうっと?」

「つまり、だ。俺の」


 その時だった。


「おー、凄い絶景の露天風呂ぉ!」

「ぬえさんがいってたとおりです」


 裸のB子とC子が露天風呂に現れてきたのだ。


「あー、ごしゅじんさま、A子さんとこんよくだー」

「もしかしてお邪魔だったかなー?」


 B子がニヤニヤ笑いながら言う。


「おおおおおお前ら何、裸で突然現れて何だっ!?」

「だって露天風呂だしー」


 そう言うとB子は露天風呂に飛びつきご主人様に抱きつく。


「こ、こらあっ!」

「何照れちゃってぇ?ホレホレ」


 B子はご主人様にボリューム溢れる乳房を押しつける。

 

「何やってんのアンタ!」

「当ててんのよ」

「ボクもー」


 C子もご主人様に抱きついてくる。


「うわぁ、やめろぉっ!」

「あらあら、賑やかねぇ~」


 そこへ更に、怒依が現れた。当然入浴の為に全裸である。


「秋徳さんがまだいたなんて~」


 そう言って怒依まで湯船に入ってきた。


「モテモテですねぇ~」

「みんなやめろぉっ」

「…バカばっか」


 A子は放置されてすっかり拗ねていた。こうして帰省の夜は更けていった。





「ところでA子」

「なんでしょう」

「昔、大学まで皆勤賞って言わなかったか?」

「ええ」

「でも大学までの事覚えていないって……」

「私は覚えていませんが、ジジィ曰く、ちゃんと登校していた、そうです」

「もしかして大学まで記憶って……」

「聞かされた記憶です」

「難儀だなぁそれ」

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