第109話 里帰り(その14)

 ご主人様たちは客間に通され、やっと重い荷物を下ろす事が出来た。


「にゃあ、やっと楽になったぁ」

「ご主人様、次はあんな道もうゴメンですから」


 A子は心底嫌そうな顔で言う。


「疲れたか」

「疲れないほうがおかしいんですよ……あ」


 気が緩んだのかA子はその場で少し立ち眩んでしまう。

 慌ててご主人様が支えると、ふとある事に気づいた。

 A子の身体が妙に熱いのである。


「熱でもあるのか?」

「へ?」


 A子は不思議そうな顔をする。


「そりゃあここまでの道のりがハードでしたから」

「とりあえず休んでくれや」

「はーい」


 A子は背負っていたザックにもたれかけながら気のない返事で答えた。


「怒依さん、親父たちの姿が見えないけど」

「奥様と一緒に年始の挨拶に出かけておられます。帰りは明後日になるとか」

「あー、行き違いになるのか」


 すると怒依が不思議そうに訊く。


「秋徳さん、ゆっくりされないんですか?」

「仕事で明日の午後には帰らなきゃならないんでね」

「ソレは残念……噂のメイドさんたちの話聞きたかったです」

「いや、本人たちが居るんだから聞けばいいじゃん」

「そういえばそうですね~」


 怒依は舌を出して笑った。大妖怪とは思えぬノンビリ屋である。


「それにしても……」


 怒依はA子たちを見てクスッ、と笑う。


「秋徳さん、昔から面白い娘に好かれるとは思ってましたが、ここまでとは~」

「あ、いや」

「? どういう事?」


 きょとんとなるA子。


「いや、だって~」

「ちょっと」

「あらあら」


 ご主人様は怒依をA子たちから引き離した。


「その件で実は……」

「?」

「怒依さんや兄貴なら一発でお見通しだろうけど、ちょっとアレだけどパンピーも居るんで」

「パンピー?」


 怒依はA子を見た。


「ひょっとしてあの子?」

「ちょっと事情があってアレに胸のでかいのが化け猫なのを隠しているんで……」

「いや、そうじゃなくて~」


 怒依はA子の方へしゃくってみせる。


「あの娘が一番面白いのに~」

「イヤ、確かに性格的に面白いけど」

「イヤ、だから~あの娘が一番変わってる~」

「え」


 ご主人様は思わずA子の方を見た。


「もしかして気づいていないの~?」

「気づく、って」

「あの娘、人じゃないと思うわぁ~」


 それを聞いた瞬間ご主人様の表情が凍り付いた。

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