第97話 里帰り(その2)

 A子たちの疑問は、3時間ほど電車に揺られた先でようやく解けた。


「ドコデスカココハ」

「都内ですよねぇ……」

「失礼だなB子、奥多摩も東京都内だが」


 ご主人様はそう言って標高千メートルを超す山々を指した。


「まぁ、この山の裏側はぶっちゃけ山梨県だが、一応山の中は東京だからセーフ」

「小笠原諸島も東京都に違いありませんからねぇ…」


 A子はそう言ってため息を吐いた。


「で、ご主人様のご実家はどこの村ですか――あ」


 そこまで言ってB子はハッとする。何かを思い出したようであった。


「村っていうか神社なんだけどね」


 そう言ってご主人様は山の上を指した。


「あの山の上にあるんだ」

「山頂……だと……っっ」

「斑鳩神社、でしたっけ」


 B子が困ったような顔をした。


「よく知ってるな」

「そりゃあ、もう……」

「アンタ何で知ってるのよ」

「我が主…もといお嬢様のお爺様からご主人様の家へ来る前に色々と」

「何あのジジイ、私には何も説明せずに私を家から追い出したわけ?」


 A子すっかりご立腹。


「……ん?」


 ふと、ご主人様はある事に気づいて傾げる。


「A子、まさかとは思うが……」

「はい?」

「俺の名前、知ってるか?」


 そう問われて、A子の顔が強張った。

 まるで今までどうして気づいていなかったかのような、そんな緊張した面持ちで。


「え」


 ソレを見たB子が唖然となる。


「え、マジ」


 思わず仰ぐご主人様。


「お嬢様、半年以上も一緒にいるのに名前すら知らないんですかっ!?」

「えー、別にいいじゃんー」


 A子は耳の穴を穿りながら惚ける。


「“ご主”が名字で“人様”が下の名前かと思ってましたー」

「嘘だ」

「適当に言ってる……」

「でもボクたちもA子さんのなまえしりませんよねえ」

「「あ」」


 C子の的確なツッコミに思わず声を出してしまうご主人様とB子であった。

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