第92話 ひきこもり

「うーん」

「何不安そうな顔してんのたっちゃん」


 居間で不安げな顔で立っていたC子を見つけたB子が声をかけた。


「……ごしゅじんさまとA子さん、さいきんおへやからでてきませんね」

「あー」


 B子はその理由を知っていた。


「確か、もんはん、とかいうゲームに夢中になってるんだろうねぇ」

「もんはん?」

「怪獣を狩るゲームとか。やった事無いからわかんないんだけど、流行ってるらしいからねぇ」

「それででてこないんですか」

「しばらくこんな調子じゃないの? お嬢様、昔出た奴だと一週間も部屋から出てこなかったしー」

「ふけんぜんですね」

「あはは」

「誰が不健全じゃ」

「あ、ご主人様」

「俺はモンハンじゃなくって、使っているパソコンのセットアップで籠もっていただけだ」


 そう答えるご主人様の顔はどこかやつれていた。


「パソコンが壊れたの?」

「いや、ボーナス出たからOSをXPから7に変えたんだが、データの移動に手間取ってなぁ……。

 動かないソフトもあるしいい加減疲れたわぁ」

「A子さんもパソコンなんでしょうか」

「いや、あいつは純粋にモンハンだと思う」


 確かにA子の部屋から時折、妙なかけ声が聞こえていた。


「メールのデータやアドレス、ブックマークの移動から使っている辞書の移動とか、結構手間かかるんだよなあ……」

「アップグレード、とか言うのは楽じゃないの?」

「いや、俺は新しいハードディスク買ってきて新規にインストールした。引き継ぎでトラブル起きると致命的だしなあ」

「そうなんですか」


 頷くC子ではあるが、その困ったような顔は明らかによく理解していないようである。


「使えないソフトとかもあったりして、通常営業に戻るのはもう少しかかりそうだ」

「まぁほどほどにねー。根を詰めて身体壊したらシャレにならないし」

「ご忠告痛み入る。でもそれはお前さんのお嬢さんに言ってやれ」

「おっしゃー! 逆燐デター」


 まるで呼応するようにA子が歓喜の声を上げた。どうやらレアアイテムをゲット出来たようである。


「あはは…」


 B子は呆れ気味に苦笑した。

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