第43話 トゲアリトゲナシトゲハムシ

「ご主人様、トゲアリトゲナシトゲハムシって虫ご存じでしょうか」

「またそのパターンだなって何その文字数稼ぎみたいな名前」

「ちなみに漢字で書くと『棘有棘無棘葉虫』」

「うわっイラッとする、有るのか無いのかはっきりしろ」

「どっちにしても実在しない虫なんですけどね」

「何……だと?」

「詳しい事情は判らないのですが、トゲナシトゲハムシという実在の虫がいて、ある文献での解説の中で件の虫が言及されていた事から、この虫の存在が注目される事になりました」

「しかし実在しない虫なんだろ」

「はい。学会などでも確認されていないそうです」

「いったいどうしてそんな事に……」

「最初にコガネムシのミニサイズな“ハムシ”という虫がいて、しばらくして棘のあるハムシが見つかった事からそれを“トゲハムシ”と命名しました。

 ところが、その種に棘のないトゲハムシが見つかり、“トゲナシトゲハムシ”と命名される事になりました」

 

 それを訊いてご主人様は困惑した。


「……ハムシじゃないの?」

「私もそうとは思うんですが、何故か分類上、別種と言う事に」

「学者って時々理解に苦しむ事やるけどさぁ……」

「しかもそこへ、棘のない件の虫の存在が語られるようになり、便宜上それを“トゲアリトゲナシトゲハムシ”と命名したようです」

「……思うんだけど、学者混乱してね?」

「私もそう思います」

「そのうちアレだ、トゲアリトゲナシトゲハムシに棘の無い新種が見つかって、『トゲナシトゲアリトゲナシトゲハムシ』って名前になるんじゃ」

「更に棘の有る新種も見つかって『トゲア」

「もういい、きりがないわソレ。何で分類し続けるのかね……」

「新種発見の名声を無視出来なかったんでしょうね、ムシだけに」

「オイオイ」

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