総角 その八十九

「この私だってこの先生き永らえていたらきっとこんな目に遭うに違いない。薫の君があれこれとしきりに言い寄ってこられるのもただ私の気を引いてみようとしていらっしゃるだけなのだ。いくら自分だけは相手になるまいと思っても言い逃れるにも限度があろう。ここの女房たちが性懲りもなくこうした縁組のことばかりを是が非でもと考えているようだから心ならずも結局はそんなふうに運ばれてしまうかもしれない。まさにこういうことこそが父宮が繰り返し繰り返しそういう点を用心して生きてゆくようにとご遺言なさったのはこんなこともあろうかと心配なさってのお戒めだったのだ。いかにも確かに不幸な身の上に生まれついた姉妹だからこそ頼みとする人にも置き去りにされるようなことになるのだろう。だからといって、姉妹が二人ながら人の物笑いになることを重ねるありようになり、亡きご両親のお顔まで潰すようなことになったらどんなに悲しいだろう。せめて私だけでもそんな色の恋のという物思いに悩まされず、愛欲の罪などそれほど重ねないさきに何とかして早く死んでしまいたい」



 と辛い物思いに沈むと、気分も本当に苦しいので食事も少しも食べない。ただ自分の死後のあれこれを朝に夕に考え続けて、何もかもなんとなく心細くて中の君を見るのさえ、とても可哀そうになり、



「自分にまで先立たれたらどんなにか頼りなく心wp慰めるすべもないことだろう。今まではもったいないほどの美しいお姿を明け暮れ見ているのが楽しみで何とかして世間並みの姫君らしくお世話もして差し上げたいものと気を配ることを人知れず所来の生きがいとも思ってきたのに。たとえ匂宮がこの上なく高貴なお方でいらっしゃるからといってこれほどまで宮から人の物笑いになるような無様なお扱いを受けてしまってはこれから世間に出て普通にお暮しになるのもそう例がなく、さぞかし本人も肩身が狭く悲しいことだろう」



 などと思い続けると、人に何を言ってみても仕方のない、自分たち姉妹はこの世では何の楽しいこともなく終わってしまわなければならない身なのだろうと心細く思うのだった。

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