総角 その六十七

 匂宮は今夜宮中からなかなか抜け出せなかったことを考えると、やはり宇治に通ってくることは気軽にできそうにもないと本当に胸もふさがる思いがする。中宮に意見されたことなども中の君に話して、



「そんなわけで心にかけながらも来られない日もあるだろうけれど、どうしたのかなど決して心配なさらないように。夢にもあなたを疎略に思うならどうしてこうまで苦心して今日通って来られるものですか。私の心をお疑いになって思い悩まれていらっしゃるかもしれないとお可哀そうで命がけでもと思って参ったのです。いつもこうはふらふらと忍び歩きをして来られないでしょう。それでいずれ何とか都合をつけて京の私の邸の近くにお迎えすることにしましょう」



 ととても熱心に言う。中の君は今からもう来られないときのことなど考えるのは噂に聞いたように浮気な心がはっきり見えているのかと疑い、今の自分の頼りない身の上も思い合わすとあれこれと無性に悲しいことばかりなのだった。

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