総角 その五十五

 使いには紫苑色の細長一襲に三重襲の袴を添えて与えた。使いは禄をもらうのを受け取りにくそうにしているので、目立たないように包ませてその供人の方に禄を与える。使いは改まった重々しい人ではなく、いつも差し向ける殿上童だ。


 匂宮はわざわざ邸の人に気取られないようにと気を遣ったのに正式の婚儀の礼として格式ばったことをさせるのは昨夜のお節介な老女の仕業だなと不快に思う。


 二日目の夜も薫の君を誘ったが、



「冷泉院にのっぴきならない用がありまして伺候しなければなりませんので」



 ということでお供を断る。匂宮はまたいつもの何かと言えば恋など無関心のように悟りすました格好をしていると憎らしい思いだ。


 宇治ではどうしたらいいだろう、思いもしなかった成り行きとはいえ、こうなった以上匂宮を疎略に扱えないと大君は弱気になって部屋の飾り付けなどを言っても何かと不足しがちな住まいなのだが、それなりに風情を作って飾り付け、匂宮を待っているのだった。

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