総角 その五十三

 匂宮は帰るなり早々中の君に後朝の手紙を差し出す。


 宇治の山荘では姉妹とも昨夜の出来事が夢のようで信じられず、思い悩んでいた。


 中の君はあれこれ企んでおきながら素知らぬふりで顔色にも出さない姉君のことを疎ましく、恨めしく思い視線をあわすことも避けている。


 大君はすべては自分の知らなかったことだとはっきり弁解することもできず、中の君が怒っているのは無理はないと心苦しく思っている。


 女房たちも、



「いったいどういうことだったのでございましょう」



 などそれとなく顔色をうかがっているが、頼りになるはずの大君がぼうっと気の抜けたような虚ろな表情なので変な具合だと皆で顔を見合わせているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る