総角 その二
たまたま薫の君の目に簾の端から几帳の帷子の隙間を通して糸を結びあげた糸繰り台が見えた。さては姫君たちがそこで紐を縒っているのかとわかったので、古歌の、
〈わが涙をば玉にぬかなむ〉
という一節を口ずさんだ。
姫君たちは宇多帝の中宮温子の崩御の後に女房の伊勢がその歌を詠んだときもきっと今の私たちのこんな悲しみと同じだったのだろうと興味深くしみじみ聞いたのだった。
それでもその歌に対してすぐに返歌するのはいかにも物知り顔めいて気恥ずかしいと思い、ただ心の内で紀貫之が、
〈糸に縒るものならなくに別れ路の
心細くもおもほゆるかな〉
と詠んで、この世での旅立ちのための生き別れさえ心細さを細い糸にかけてこんなに淋しがったではないか、父宮と死別した自分たちがなおさら心細いのは当然だなどと考え、確かに古歌というものは人の心の思いを晴らすよりどころだったと思い出すのだった。
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