椎本 その五十五
その年、薫の君の本邸、三条の宮邸が消失して女三の尼宮も六条の院に移り、あれこれ薫の君の身辺は多忙をきわめた。それに取り紛れて宇治の姫君たちを長い間訪ねなかった。生真面目な薫の君の性質はまた他の男たちとはまったく違うので、いたってのんびり構えていてきっと大君は自分の妻になる人だと信じ込み、大君の心が自分の恋を受け入れる気持ちにならない限りはくだけた態度で無体なことはしないでおこうと思っている。ただ亡き八の宮の約束をいつまでも忘れない自分の心の深さを大君に十分わかってほしいと思っているのだった。
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