椎本 その五十四
相変わらずこんなふうに突き放した素っ気ない態度ばかり見せるので匂宮は心の底から恨めしいと悩み続けている。胸の思いの苦しさに耐え切れなくなってはただ薫の君だけにあれこれと打ち明けて仲立ちに不誠実だと責めては恨み言を言うので、薫の君は内心おかしがっていっぱし姫君の後見人らしい自信たっぷりの大きな顔で応答して匂宮の浮気っぽい気持ちを見抜いたりしたときは、
「そんなことではとてもとても」
など言うので、匂宮もずいぶん気遣うようだ。
「私の浮気は本当に気に入った相手がまだ見つからない間だけのことですよ」
と弁解する。
夕霧の右大臣家ではかねてから六の君を匂宮へと考えていたが、匂宮自身が一向に六の君に興味を示さないので、右大臣も多少不満に思っている。しかし匂宮は、
「六の君とは従兄妹同士で近すぎてあまり気が進まない上に父君の右大臣が何かにつけたいそうなうるさい人だからほんのちょっとした浮気などまでいちいち咎めだてされそうなのがかなわない」
と蔭では言って抵抗しているのだった。
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