椎本 その五十

 それを小耳に挟んでとても結構な話だとうれしがってニコニコしている女房たちがいるのを中の君は何とみっともない、どうしてそんなことができようかと思う。


 姫君は果物を見栄えよく盛り付けて薫の君に差し上げ、お供の人々にも肴などを体裁よくととのえてお酒なども出した。


 あの薫の君の移り香の衣装で評判になった宿直の侍は頬から顎にかけての髭面の仏頂面をそのままひかえている。薫の君はこれが姫君の番人とは頼りないなと見て呼び寄せる。



「どうしているか。八の宮がお亡くなりになってからさぞ心細いことだろう」



 など問う。男は半泣きの顔を歪めていかにも気弱そうに泣きだす。



「この世に頼りにする身寄りもございませんので、八の宮ただお一人におすがりして三十余年をこちらに過ごさせていただきました。今となってはいっそう野山にさすらうにしましてもどのようなお人を木陰と頼んでおすがりしてよいものやら途方にくれるばかりでございます」



 と言ってますますみっともない顔で泣くのだった。

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