椎本 その四十三
これまでは気にも留めなかったあたりの山住の者たちも八の宮が亡くなってからは時たまご機嫌伺いに参上すると、奇特なこととうれしく思う。冬のことなので薪や木の実を拾って持参する山人たちもいる。
阿闍梨の僧房からも炭などを出して、
「これまで長年御用を承っておりました習慣なのに、今年から途絶えてしまいますのも淋しゅうございますので」
と言ってくる。これまで毎年冬の参篭用にと綿入れの僧服などを八の宮が山寺へ寄進していたのを姫君たちは思い出して同じようにお布施をする。
法師や童子たちがとても深く降り積もった雪の中に姿を見せたり、隠したりしながら山に上って行く様子を姫君たちは端近に出て泣きながら見送る。
「たとえ父宮が剃髪していらしてそのお姿ででもこの世に生きておいであそばすならこうして出入りする人も自然と多いでしょうに。父宮と別々に暮らしてどんなに淋しく心細くてももうまったくお会いできないというようなことはなかったでしょうに」
などと互いにしみじみ話した。
君なくて岩のかけ道絶えしより
松の雪をもなにとかは見る
と大君が詠むと、中の君は、
奥山の松葉に積もる雪とだに
消えにし人を思はましかば
「父宮はこの世から消えておしまいになったのに、雪はまた降り積もる羨ましさ」
とつぶやくのだった。
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