橋姫 その四十四

「弾いてごらん」



 とあちらの姫君たちに勧めるが、人に聞かせるなど思いもよらず自分達だけで弾いていたのを薫の君に聞かれたというだけでも恥ずかしくてさぞ聞き苦しかっただろうと奥へ引っ込んでしまって二人とも聞き入れない。八の宮が度々勧めるが、何とかかと逃げ口上を言って弾かないようなので、薫の君はひどく残念でならない。


 こんなことのあるにつけても八の宮はこんなふうに姫君たちがあやしいほど世間離れしたと思い暮らしているありさまを不本意に恥ずかしく思う。



「娘たちのことを世間の人に知らせまいとして密かに育ててきましたが、もう私が今日明日とも知れない身になって余命の少なさを考えますと、さすがに行く末の長い娘たちの将来がどうなることやら落ちぶれてさすらうようなことになりはしないかとそればかりが案じられてそれだけが本当に出家の絆なのです」



 と話すので、薫の君はいたわしく思っている。



「婿のような表向きの後見をさせていただけないにしても、私を他人行儀にお扱いにならず、お世話させていただきたいと思います。たとえしばらくでも私の命ある限りは一言にせよ、こうしてお約束申し上げたことは決して違えることはありません」



 と言うと、八の宮は、



「それはまことにうれしいことです」



 と思い、口にもするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る