橋姫 その二十八
妙にもったいぶっている薫の君に思われるのも困るので、大君は、
「何事もわきまえない私たちでして、訳知り顔にどうお答えしてよいものやらさっぱりわかりませんので」
と、とても教養ありげな気品のある声で遠慮がちにほのかに言う。薫の君は、
「実はよくわかっていながら人の嘆きに知らぬ顔するのも世間の習いとよく存じておりますが、あなた様までがあまり空々しいことをおっしゃるのは残念でなりません。世にも珍しくすべてを悟り澄ましていらっしゃる父宮とご一緒にお暮しのあなたのお心のうちでは何もかもお見通しとお察しいたしますので、やはりこうして胸の思いを秘めきれなかった私の心の深さ浅さのほどもお分かりくださってこそ、お悟りの甲斐があるというものでしょう。私のことを世間にありがちな色めいた連中などとはいっしょにお考えいただきたくないと存じます。そのような方面はわざわざ勧める人がありましても、決して言う通りにはなびかないつもりの気の強い私です。こうした私のことは自然お耳にも入っていることでしょう。今はまだ話し相手もなくひとり者でして、まったく所在なく暮らしております。私の世間話でも聞いていただくお方とお頼りしてまたこうした世間離れしたお暮しではそちらさまも主思いもおありのことでしょうから、その気散じにそちらからお便りをくださるくらいの親しいお付き合いをさせていただけたら、どんなにうれしいことでしょう」
など、いろいろと話すので、大君は恥ずかしくて答えに困り、起こしにやった年寄りの女房が出てきたのに対応を任せるのだった。
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