橋姫 その十八

 けれども薫の君はそんな煩悩を捨てたいという願いで山深く訪ねてきたのだから、その気持ちに背いて色めいたいいかげんなことを言って戯れかかるのも本来の志に違うことになるだろうと反省する。それで八の宮の暮らしのいかにも尊い心うたれる様子なのを、心を込めて見舞い、しげしげと訪ねた。


 そんな薫の君の望み通りに八の宮は在俗の修行僧ながら山に籠って修行する深い意味や経典についてなどことさら博識ぶったりはせず、とてもわかりやすく教えてくれる。


 いかにも厳しい修行僧ぶった人や、学問の優れた僧などは世の中にたくさんいるが、あまり堅苦しく親しみにくい高徳の僧都や僧正といった身分の人は世間的にも実は多忙で、融通が利かず何かこちらが質問してもその道理を明らかにして教えてくれる時もひどく大仰な感じがする。またたいしたことない法師でただ戒律を守っているだけが取り柄の人柄も下品で言葉にも訛りがあって汚く、無作法で図々しいのはまったく不愉快至極だ。昼は政務で忙殺されているので、心も落ち着いた静かな宵の間にそんな連中を枕元の側近くに呼び入れて話し相手にするのもやはりどうにも鬱陶しい感じで気乗りがしないのだった。

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