橋姫 その五

 こうした姫君たちの絆に邪魔をされて出家ができないことだけでも八の宮は不本意でもあり残念でならないのです。どうして自分の心なのに思い通りにならないのかと前世の宿縁の拙さが思われて口惜しくてならない。それなのにましてや世間の人のように再婚など今更できようかと考え、月日が経つにつれてますます俗世のことはあきらめて心だけはもうすっかり出家者のようになりきってしまい、北の方が亡くなってからあとは世間の人のような浮気な気持ちなどかりそめにも持たないのだった。



「どうしてそうまでお堅くなさることがございましょう。死別した当座の悲しみというものはこの世にこれ以上のつらさがあろうかと思われるものですが、時が経てばそうばかりでもございませんでしょう。やはり世間の人のように再婚なさいましたら本当にこんなに見苦しくて心細いお邸の中も自然と立ち直ってきてよろしいのに」



 と側の人は見かねて言い、あれこれと縁故をたどって再婚の話をもっともらしくたくさん持ち込んだが、八の宮はまるで聞き入れない。


 念誦の暇々には姫君たちの相手をして二人が次第に成人するので、琴を習わせ、碁を打ち、偏つきなどのちょっとした遊びごとをしたりする。そんな時、二人の性質をみると大君のほうはいかにも聡明で思慮深く重々しく見える。中の君はおっとりと可憐な様子で控えめな感じが本当に可愛らしく姉妹それぞれに個性があるのだった。

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