竹河 その六十二
「昇進の喜びなどは私にはたいして感じられませんが、まず何よりもお目にかかりたくて参上いたしました。素通りせずになどとは日頃のご無沙汰の罪をわざと皮肉におっしゃるのでしょうか」
と言う。玉鬘の君は、
「今日はすっかり年寄りになってしまった私の愚痴など、申し上げる折でもないと遠慮されるのですが、ざわざわお立ち寄りくださることはめったにございませんし、直接お目にかかってでなければ人伝にはとてもこんなごたごたした話は申し上げられません。実は冷泉院にお仕えしている大君がひどく宮仕えで苦労しておりまして、身の置き所も内容に困っております。弘徽殿の女御をお頼りにし、また秋好む中宮もご不快でもきっとお許しくださるだろうと存じておりましたのに、どちらさまでも礼儀知らずの我慢ならぬ者とお思いのようですからたまらなくなっていたたまれず、困り果てております。若宮たちはそのまま院においでになりますが、この宮仕えを辛がっているご本人はせめて里下がりしてのんびり気養生なさるようにと退出させたのです。それにつけても聞き苦しい噂が立ちますし、院も里下がりをけしからぬことのように思い、口にもされるようです。もしよい機会がございましたらあなたからそれとなくおとりなしくださいませ。中宮といい女御といい、どちらさまもおすがりできるお方と思いましたので、院へ出仕させました。その当座はどちらさまにも気兼ねなく心を許してお頼り申しておりましたが、今ではこんな行き違いができてしまって身の程知らずで世間知らずだった自分の考えが悔やまれてなりません」
と泣いている様子だった。
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