竹河 その四十九

「〈闇はあやなし〉〈香やは隠るる〉と申しますが、月光に輝いていらっしゃったあなたのお姿もまた蔵人の少将より一段と美しいとみんなで話し合ったことでした」



 などおだてあげて、簾中から




 竹河のその夜のことは思ひ出づや

 しのぶばかりの節はなけれど




 と言う。どういうこともない歌なのだが、思わず涙ぐむのもやはり御息所への思いは浅くなかったのだと自分でも思い知らされる。




 流れてのたのめむなしき竹河に

 よは憂きものと思ひ知りにき




 と詠む薫の君のなんとなくもの悲しそうな風情に女房たちはうっとりしている。


 というものの、実際薫の君は誰かのようにむきになって泣き言は言わなかったが、人柄だけはさすがになんとなく同情が湧くのだった。

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