竹河 その二十一

 姫君たちは碁を打ちさして恥ずかしそうにしている様子がとても美しい。長男の左近の中将は、



「宮中などに上がってあちこちしましても亡き父上がご存命だったならと思われることがたくさんありまして」



 など涙ぐんで姫君たちを見ている。この中将は二十七、八歳くらいなのですっかり思慮分別も具わってこの姫君たちを何とかして亡き父君が昔希望していたように宮仕えに上がらせたいものだと考えていた。


 庭前の花の木の中でも姫君たちは色のとりわけ美しい桜を折らせて、



「他の花とはまるで違っていますわ」



 と言って、もてはやしているのを中将は見て、



「あなたたちがまだ小さかった頃、この花を私のよ、私のよ、と取り合いなさったのを亡くなられた父上が大君のお花だとお決めになりました。母上は中の君の桜だとおっしゃいました。その時私はそんなにひどく泣いたり駄々をこねたりはしませんでしたが、内心不平でならなかったものでしたよ」



 と言うのだった。

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