幻 その十四

「世間の目から見て出家してもそれほど惜しいとも思われない人でもいざ出家すると当人の心の内にはさまざまな捨てきれない絆がどうしてもたくさんあると申します。まして光源氏様ともあろうお方が、どうしてそうやすやすと出家がお出来になりましょう。そんなふうに軽いお気持ちで簡単に出家を思い立たれますと、あとで軽はずみなと非難されるようなことも起こってきて、かえって出家しなければよかったなどということもあるようですから、きっぱりと決心がつきかねるようなほうが結局は道心も澄み切った堅固な境地に深く到達なさるように思われまして。昔の人の例などを聞きましても、何か心が動揺したり、思いのままにならないことがあったりして俗世を捨てるきっかけになるかと申します。でもそういうのはあまりよくないことだと聞いています。やはりもうしばらく出家のことは一途にお考えにならず、おのばしになられて、中宮の小さい宮たちが成人あそばしてしっかりとゆるぎない東宮の立場になられるのを見届けなさいますまではこのままでお変わりなくいらっしゃいますのが私などには安心でうれしゅうございます」



 などととても思慮深そうに言った態度はなかなか結構だった。

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