幻 その十一
所在なさのあまり女三の宮のところに出かける。三の宮も女房に抱かれて一緒に来た。こちらの若君と走りまわって遊んでいる様子はあの花を惜しむ気持ちなどは深くあるとも見えず、まったく頑是ない。
女三の宮は仏前でお経を読んでいた。それほど深く悟った道心でもなかったのだが、この現世に恨みを抱いた心を乱されるようなこともなく、平穏な暮らしの中で心静かに一筋に勤行してすっかり俗念を離しているのも光源氏には本当にうらやましくこうした深い思慮もない女人の道心にさえ先を越されてしまったと残念に思うのだった。
閼伽桶に浮かべた花が夕暮のほの明かり映えて美しく見えるので、
「春の好きだった紫の上も亡くなって、今年は花の色もさめて感じられうら寂しくなっていましたが、こうして仏の供花として飾られているのはいいものですね」
と言い、
「東の対の庭前の山吹はやはりよそでは見られない珍しい花の咲きぶりですよ。その花房の大きいことといったら。上品に咲こうなどと思ってもいない花なのでしょうか、華やかで賑やかな感じはなかなか結構で見どころがあります。植えた人がもういなくなってしまった春とも知らずに例年よりいっそう美しく咲いているのが哀れに思われます」
と言うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます