幻 その十
「花を散らすまいとして大空をおおうような袖はないものかと考えた昔の人より、ずっと利口な思い付きですね」
などとこの三の宮だけを遊び相手としている。
「あなたとこうして一緒に仲良くしていることも残り少なになりましたよ。もうしばらく命があったとしても、こうしてお会いできなくなります」
と言って、いつものように涙ぐむと、とても嫌なことを言うと三の宮は思い、
「お祖母さまもそうおっしゃったけれど、縁起の悪い同じことをおっしゃるなんて」
と目を伏せて着物の袖をいじったりなどしながら涙を隠そうとする。
光源氏は縁側の欄干にもたれて、前の庭や御簾の内などを見渡して物思いにふけっている。
女房たちも今もまだ紫の上のために喪服を着たままでいるものもあり、また常の衣装に着替えた人も綾などの派手なものは着ていない。光源氏自身の直衣も色は普通のものだが、格別地味にして無地を着ている。
部屋の飾り付けなどもいたって簡素に手間を省いて何もかも寂しくなんとなく心細そうにひっそりと沈んで見えるので、
今はとて荒しや果てむなき人の
心とどめし春の垣根を
自分から決意した出家ではありが、やはり悲しく感じるのだった。
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